民音社のユーチューブ放送は登録者が25万人にのぼる有名チャンネルだ。出版社チャンネルらしく10日晩には海外文学チーム担当者が3人出演し、ノーベル文学賞の発表を待ちながら生放送をした。ここで紹介した有力候補はすべて外国の作家だった。8時にスウェーデンで受賞者を発表する映像で韓江(ハン・ガン)とサウスコリアが聞こえた。全員が戸惑う表情だった。「韓江? 韓…江?」。口に手であてて凍りついた出演陣は5秒ほど経過してから拍手、歓呼した。感激よりも衝撃が大きかったようだ。ある出演者は「ノーベル文学賞を紹介しながら『海外現代文学』という言葉を繰り返してきたが、私たちの文学になるとは思わなかった」と語った。
予想していなかった朗報にしばらく戸惑って長く歓呼したのは国民も同じだった。わずか2日間でオン・オフライン書店3カ所で約30万冊が売れるほど「韓江シンドローム」が起きた。書店の前に長い列ができ、本はすっかり売れた。新聞と放送も「韓江」で覆われた。各グループチャットも大騒ぎになった。息苦しくて暗鬱なニュースにうんざりしていた市民を「韓江の奇跡」はサイダーのようにすっきりさせた。
しかし誰もが同じ考えというわけではなかった。メディアのコメント欄では理念論争に火がついた。韓江氏の受賞が気に入らない人たちの憤怒がコメント欄に広がり、これに対する反論が続いた。憤怒は韓江氏の作品が4・3と5・18を被害者の立場で叙述したことによる。「歪んだ歴史意識による歪曲された作品」が地球村で最も大きな文学賞を受けたという事実を認めることも祝うこともできないようだった。憤怒は韓江氏と作品を選択したノーベル賞委員会にまで向かった。「扇風機の前で原稿を飛ばして(近くに落ちた順で)決定したのか」という1980年代式の皮肉までが登場した。ノーベル賞委員会は韓江氏が「歴史的トラウマに対抗して人間の生の軟弱を表した強烈な詩的散文」を書いた点を高く評価したが、書き込みをする人たちはトラウマをさらに研いで嫌悪の武器に育てるようだ。
彼らの憤怒を見ながら、韓江氏にマン・ブッカー賞を抱かせた『菜食主義者』が思い浮かんだ。夢でみたトラウマのために肉食を拒否する主人公ヨンヘに人々の圧迫が向かい、結局は精神病に陥っていく過程を3人の視点で細かく描いた連作のような作品だ。ヨンヘは肉に引かれなかっただけだが、人々は理由を理解しようとするより非正常だとして「菜食主義者」というレッテルを貼る。評論家ホ・ユンジン氏は初版の末尾の解説で「他人の習性や文化について理解しようと努力する人は思っているほど多くない」とし「そのような時は彼/彼女をただ自然に動くように置いておくのも理解の方便の一つ」と書いた。歴史的な事実を被害者の立場でまた暴いた作品は感服できないこともある。大きな賞を受けたからといってみんなが祝う義務もない。ただ、あえて他人の家の祝宴をつぶす必要はないのではなかろうか。
「巨大な波のように温かいお祝い」と「それに対する頑固な拒否」がぶつかり合っている間、もう一つの便りが伝えられた。韓江氏の父ハン・スンウォン作家は、「戦争が激しくなり、日々死者が運ばれているのに、何の祝いをして記者会見をするのか」という娘の考えを伝えた。歴史的事件で個人と集団が経験する傷とトラウマに深く穿鑿してきた作家の感受性は、最も栄光の瞬間にも乱れなかった。またウクライナを侵攻したロシアやハマスの奇襲を口実に民間人にも区別なく過酷な攻撃を浴びせるイスラエルに沈黙してきた世の中に向けた厳しい忠告でもある。韓江氏は12月10日にスウェーデンで開かれるノーベル賞授賞式で受賞の所感を明らかにするという。そこで現在の大きな戦争に言及するかは本人だけが知る。しかしノーベル賞受賞者として言及すればその響きは小さくないはずだ。すでに12月が期待される。
チェ・ヒョンチョル/論説委員
予想していなかった朗報にしばらく戸惑って長く歓呼したのは国民も同じだった。わずか2日間でオン・オフライン書店3カ所で約30万冊が売れるほど「韓江シンドローム」が起きた。書店の前に長い列ができ、本はすっかり売れた。新聞と放送も「韓江」で覆われた。各グループチャットも大騒ぎになった。息苦しくて暗鬱なニュースにうんざりしていた市民を「韓江の奇跡」はサイダーのようにすっきりさせた。
しかし誰もが同じ考えというわけではなかった。メディアのコメント欄では理念論争に火がついた。韓江氏の受賞が気に入らない人たちの憤怒がコメント欄に広がり、これに対する反論が続いた。憤怒は韓江氏の作品が4・3と5・18を被害者の立場で叙述したことによる。「歪んだ歴史意識による歪曲された作品」が地球村で最も大きな文学賞を受けたという事実を認めることも祝うこともできないようだった。憤怒は韓江氏と作品を選択したノーベル賞委員会にまで向かった。「扇風機の前で原稿を飛ばして(近くに落ちた順で)決定したのか」という1980年代式の皮肉までが登場した。ノーベル賞委員会は韓江氏が「歴史的トラウマに対抗して人間の生の軟弱を表した強烈な詩的散文」を書いた点を高く評価したが、書き込みをする人たちはトラウマをさらに研いで嫌悪の武器に育てるようだ。
彼らの憤怒を見ながら、韓江氏にマン・ブッカー賞を抱かせた『菜食主義者』が思い浮かんだ。夢でみたトラウマのために肉食を拒否する主人公ヨンヘに人々の圧迫が向かい、結局は精神病に陥っていく過程を3人の視点で細かく描いた連作のような作品だ。ヨンヘは肉に引かれなかっただけだが、人々は理由を理解しようとするより非正常だとして「菜食主義者」というレッテルを貼る。評論家ホ・ユンジン氏は初版の末尾の解説で「他人の習性や文化について理解しようと努力する人は思っているほど多くない」とし「そのような時は彼/彼女をただ自然に動くように置いておくのも理解の方便の一つ」と書いた。歴史的な事実を被害者の立場でまた暴いた作品は感服できないこともある。大きな賞を受けたからといってみんなが祝う義務もない。ただ、あえて他人の家の祝宴をつぶす必要はないのではなかろうか。
「巨大な波のように温かいお祝い」と「それに対する頑固な拒否」がぶつかり合っている間、もう一つの便りが伝えられた。韓江氏の父ハン・スンウォン作家は、「戦争が激しくなり、日々死者が運ばれているのに、何の祝いをして記者会見をするのか」という娘の考えを伝えた。歴史的事件で個人と集団が経験する傷とトラウマに深く穿鑿してきた作家の感受性は、最も栄光の瞬間にも乱れなかった。またウクライナを侵攻したロシアやハマスの奇襲を口実に民間人にも区別なく過酷な攻撃を浴びせるイスラエルに沈黙してきた世の中に向けた厳しい忠告でもある。韓江氏は12月10日にスウェーデンで開かれるノーベル賞授賞式で受賞の所感を明らかにするという。そこで現在の大きな戦争に言及するかは本人だけが知る。しかしノーベル賞受賞者として言及すればその響きは小さくないはずだ。すでに12月が期待される。
チェ・ヒョンチョル/論説委員
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