医療・政治対立の中で医療問題が長期化し、患者と国民の苦痛が限界に達している。深刻な医療・政治対立を招いた原因は、韓国の医師不足に対する見解の違いだ。今からでも、果たして医師数のが足りないのかについて、すべての国民が共感する客観的な答えを導き出すことができれば、この7カ月間続いた医療・政治対立も解決の糸口を見出すことができる。政府や医師のどちらでもない客観的な資料に基づいた経済学的分析が役に立つかもしれない。先入観なしにひたすらデータ、特に2024年度OECD(経済協力開発機構)の保健統計(Health Statistics)データに基づいて建設的議論を始めてみよう。
医師不足問題に対する答えを探すためには、まず人口1人当たりの医師の数を確認しなければならない。経済学的に見れば、医師は病気の診断と治療のような医療サービスを生産する労働者だ。OECD統計によると、韓国は2021年基準で13万人の医師が国民の健康に責任を負っている。これを人口1000人当たりの医師の数に換算すると2.6人で、OECD平均の3.7人よりはるかに低い。
もし、医師の数に比例して医療サービスが生産されるならば、韓国は医師の数が少ない分、医療サービスも過小に供給されるだろうし、その場合、医師の数が不足しているという主張は説得力を持つ。このような認識が、政府が医師の数を増やそうとした根拠だったのだろう。
次の段階では、少ない医師の数だけ医療サービスが実際に過少に供給されるかをデータで確認しなければならない。このための一つの指標として、国民が1年間診療を受けた医療サービスの量を測定する必要がある。医療サービスの量を測定するための基礎的な方法として、国民一人一人が医師に会って診療を受けた回数を考慮してみよう。
◇国民の診療回数、OECD平均の2倍
OECD国家で国民1人が医師に診療を受けた回数は平均的に年間8回だ。 もし、医師の数に比例して医療サービスが生産される場合、人口当たりの医師数が少ない韓国国民1人の医師診療回数はOECD平均より少ない年間6回未満でなければならない。
実際にデータを見ると、韓国国民1人が診療を受けた回数は年平均16回で、OECD平均に比べて2倍にもなる。相対的に少ない医師が投入されながらも、国民1人が診療を受けた回数で測定した医療サービス生産は驚くべきことにOECD1位水準だ。これを医師1人当たりの医療サービス生産量、すなわち労働生産性に換算してみると、およそ6000回だ。このように診療回数を基準に測定すれば、韓国の医師はOECD平均より3倍も高い労働生産性を示している。他のOECD諸国に比べて医師の労働生産性が3倍にもなるならば、医師の数が少ないという理由だけで国民が必要とする医療サービスを提供できないほど、医師の数が大きく不足しているとは言い難い。
もちろん、医師1人当たり年間6000回という多くの診療が、果たして患者の成功的な治療につながるのか、医療生産の品質も評価しなければならない。 多くの診療量により、むしろ診療の質に大きな低下がある場合、これは究極的に医師不足を裏付けることもできるからだ。したがって、次の段階で診療量の増加による診療サービスの質の低下があるかもデータで評価しなければならない。すなわち、診療回数だけでなく、治療成功率のような治療効果も評価しなければならない。
OECDデータによると、韓国のがん患者の5年生存率はOECD国家の中で最上位に位置する。胃がんと大腸がんの5年生存率が1位で、肺がんの5年生存率は3位だ。これは診療の質まで反映した医療サービスの生産量も他国に比べて決して低くないことを示唆している。総合的に見ると、韓国の医師の数は人口当たりの割合は低いが、高い生産性と質的水準まで考慮してみれば、大きく不足してはいないと判断される。
相対的に医師数が少ないにもかかわらず、OECD最上位水準の医療サービスを供給できる理由は、医師数は少ないが、機械装備を多く利用する資本集約的な生産方式を利用するためである可能性が高い。
資本集約的な方法を選ぶと、医師1人当たりの医療生産量が多くなる。特に、医療機械や診断装備の投入を増やすと、医師が患者を診る時間を大幅に減らすことができる。例えば、胃が痛い患者に医師が問診し、胃酸抑制剤を処方した後、3~4週間後に薬の効果が出るかどうかを見ながら診断する代わりに、胃内視鏡を利用すれば1時間で正確に診断できる。このように機械を利用して患者を診る診療時間を減らせば、医師1人が診療できる患者数が増加し、少ない数の医師でも多くの患者の世話ができるようになる。
実際、医療機械を利用する割合で、韓国はOECD加盟国の中で最上位レベルだ。CT(コンピューター断層)を利用した診断検査は、人口1000人当たり280回で、OECD平均の160回に比べてほぼ2倍ほど多い。人口100万人当たりのCT、MRI(磁気共鳴映像)、MG(マンモグラフィ―)の機械の数も米国に次いでOECD2位だ。韓国の医療業界は非常に機械的な生産方式を利用している。
◇「3分治療」と必須医療問題の解決
以上の過程を通じてデータが語る諸般の証拠を偏見なく検討してみれば、韓国の医師の数が大きく不足しているという主張を支持する客観的な証拠を探すのはそれほど容易ではない。韓国は人口当たりの医師の数がOECDの平均に比べて少ないが、多量の医療機械を投入する資本集約的、時間節約的な生産方式を使用し、どのOECD国家よりも多い量の国民1人当たりの医療サービスを生産供給していると見られる。したがって、国民が必要とする医療サービスを供給できないほど、医師数が大きく不足していると結論付けるのは容易ではなさそうだ。
もちろん、「3分診療」に象徴される短い診療時間によって、韓国の医療サービスに満足できない国民も存在する。短い診療時間が診断と治療という核心医療サービスの供給不足を意味するものではないように見えるが、医療界も国民の不満に耳を傾ける必要がある。また、全体の医師の数は大きく不足していなくても、重症必須医療分野や小児青少年科や産婦人科など一部分野と地方医師不足問題は必ず解決しなければならない医療改革の課題だ。医療部門間および地域間の医師の数の不均衡問題を解決するための最適なインセンティブシステムの考案など、政府と医療界が膝を突き合わせて解決すべき医療改革の課題は山積している。政府と医療界は、これまでの立場の違いや感情的なわだかまりを後にして、ひたすら国民のためになるという気持ちで、一日も早く知恵を合わせて解決策の模索に取り組むことを期待する。
キム・セジク/ソウル大学経済学部教授
医師不足問題に対する答えを探すためには、まず人口1人当たりの医師の数を確認しなければならない。経済学的に見れば、医師は病気の診断と治療のような医療サービスを生産する労働者だ。OECD統計によると、韓国は2021年基準で13万人の医師が国民の健康に責任を負っている。これを人口1000人当たりの医師の数に換算すると2.6人で、OECD平均の3.7人よりはるかに低い。
もし、医師の数に比例して医療サービスが生産されるならば、韓国は医師の数が少ない分、医療サービスも過小に供給されるだろうし、その場合、医師の数が不足しているという主張は説得力を持つ。このような認識が、政府が医師の数を増やそうとした根拠だったのだろう。
次の段階では、少ない医師の数だけ医療サービスが実際に過少に供給されるかをデータで確認しなければならない。このための一つの指標として、国民が1年間診療を受けた医療サービスの量を測定する必要がある。医療サービスの量を測定するための基礎的な方法として、国民一人一人が医師に会って診療を受けた回数を考慮してみよう。
◇国民の診療回数、OECD平均の2倍
OECD国家で国民1人が医師に診療を受けた回数は平均的に年間8回だ。 もし、医師の数に比例して医療サービスが生産される場合、人口当たりの医師数が少ない韓国国民1人の医師診療回数はOECD平均より少ない年間6回未満でなければならない。
実際にデータを見ると、韓国国民1人が診療を受けた回数は年平均16回で、OECD平均に比べて2倍にもなる。相対的に少ない医師が投入されながらも、国民1人が診療を受けた回数で測定した医療サービス生産は驚くべきことにOECD1位水準だ。これを医師1人当たりの医療サービス生産量、すなわち労働生産性に換算してみると、およそ6000回だ。このように診療回数を基準に測定すれば、韓国の医師はOECD平均より3倍も高い労働生産性を示している。他のOECD諸国に比べて医師の労働生産性が3倍にもなるならば、医師の数が少ないという理由だけで国民が必要とする医療サービスを提供できないほど、医師の数が大きく不足しているとは言い難い。
もちろん、医師1人当たり年間6000回という多くの診療が、果たして患者の成功的な治療につながるのか、医療生産の品質も評価しなければならない。 多くの診療量により、むしろ診療の質に大きな低下がある場合、これは究極的に医師不足を裏付けることもできるからだ。したがって、次の段階で診療量の増加による診療サービスの質の低下があるかもデータで評価しなければならない。すなわち、診療回数だけでなく、治療成功率のような治療効果も評価しなければならない。
OECDデータによると、韓国のがん患者の5年生存率はOECD国家の中で最上位に位置する。胃がんと大腸がんの5年生存率が1位で、肺がんの5年生存率は3位だ。これは診療の質まで反映した医療サービスの生産量も他国に比べて決して低くないことを示唆している。総合的に見ると、韓国の医師の数は人口当たりの割合は低いが、高い生産性と質的水準まで考慮してみれば、大きく不足してはいないと判断される。
相対的に医師数が少ないにもかかわらず、OECD最上位水準の医療サービスを供給できる理由は、医師数は少ないが、機械装備を多く利用する資本集約的な生産方式を利用するためである可能性が高い。
資本集約的な方法を選ぶと、医師1人当たりの医療生産量が多くなる。特に、医療機械や診断装備の投入を増やすと、医師が患者を診る時間を大幅に減らすことができる。例えば、胃が痛い患者に医師が問診し、胃酸抑制剤を処方した後、3~4週間後に薬の効果が出るかどうかを見ながら診断する代わりに、胃内視鏡を利用すれば1時間で正確に診断できる。このように機械を利用して患者を診る診療時間を減らせば、医師1人が診療できる患者数が増加し、少ない数の医師でも多くの患者の世話ができるようになる。
実際、医療機械を利用する割合で、韓国はOECD加盟国の中で最上位レベルだ。CT(コンピューター断層)を利用した診断検査は、人口1000人当たり280回で、OECD平均の160回に比べてほぼ2倍ほど多い。人口100万人当たりのCT、MRI(磁気共鳴映像)、MG(マンモグラフィ―)の機械の数も米国に次いでOECD2位だ。韓国の医療業界は非常に機械的な生産方式を利用している。
◇「3分治療」と必須医療問題の解決
以上の過程を通じてデータが語る諸般の証拠を偏見なく検討してみれば、韓国の医師の数が大きく不足しているという主張を支持する客観的な証拠を探すのはそれほど容易ではない。韓国は人口当たりの医師の数がOECDの平均に比べて少ないが、多量の医療機械を投入する資本集約的、時間節約的な生産方式を使用し、どのOECD国家よりも多い量の国民1人当たりの医療サービスを生産供給していると見られる。したがって、国民が必要とする医療サービスを供給できないほど、医師数が大きく不足していると結論付けるのは容易ではなさそうだ。
もちろん、「3分診療」に象徴される短い診療時間によって、韓国の医療サービスに満足できない国民も存在する。短い診療時間が診断と治療という核心医療サービスの供給不足を意味するものではないように見えるが、医療界も国民の不満に耳を傾ける必要がある。また、全体の医師の数は大きく不足していなくても、重症必須医療分野や小児青少年科や産婦人科など一部分野と地方医師不足問題は必ず解決しなければならない医療改革の課題だ。医療部門間および地域間の医師の数の不均衡問題を解決するための最適なインセンティブシステムの考案など、政府と医療界が膝を突き合わせて解決すべき医療改革の課題は山積している。政府と医療界は、これまでの立場の違いや感情的なわだかまりを後にして、ひたすら国民のためになるという気持ちで、一日も早く知恵を合わせて解決策の模索に取り組むことを期待する。
キム・セジク/ソウル大学経済学部教授
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