筆者は40年余りにわたり韓半島(朝鮮半島)を観察してきたが、この地域のひとつの特徴をよく知っている。世界のどこでもメディアは誇張評価、誇張報道する傾向があるが、韓半島でこの傾向がとても明確に現れる点だ。今回のロシアのプーチン大統領訪朝に対する報道を見ればこうした特徴を簡単に見ることができる。プーチン氏訪朝が韓半島と北東アジアの政治を完全に変える事件という主張もあり、ロシアが北朝鮮を改めて自分たちの影響圏にしようとしているとの主張もある。しかしこうした主張のいずれも根拠は特にない。
筆者はこのような「画期的な変化」をもたらすと主張した事件を4~5年ごとに1回ずつ見ているが、その中で長期的な結果を残した事件はひとつもない。最近の事例は2018年の「韓半島の春」(同年の南北首脳会談などの交流)だ。当時ソウルで韓半島はこれから永遠に違う道に進むという予測があふれた。しかしいま「韓半島の春」は忘れられてしまった。筆者が見るに、今回のプーチン氏の平壌(ピョンヤン)訪問も同様の事件、すなわちその時はとても騒がしいが数年以内に結果は特になく忘れられる事件だ。なぜそうなのか。
まず朝ロ双方は新しい条約で、侵略される場合に相互支援をするという条項を追加した。これは軍事同盟の復活だが特に新しいものではない。1961年に締結された朝ソ条約で同じ条項がすでにあったが、韓半島の状況に多くの影響を及ぼすことはできなかった。興味深いことに1968年のプエブロ号拉致事件当時、ソ連の外交官らは韓半島で戦争が勃発するならばソ連に参戦する義務はないという根拠を探した。外交官らはこの危機が北朝鮮の一方的行動のために起きたことを強調するならば危機に巻き込まれるのを回避できるという案を上部に報告した。
いまも似た状況ではないだろうか。核保有国になった北朝鮮を攻撃できる国は世界にひとつもない。反対に北朝鮮が隣国に対する侵略を敢行するならばロシアは状況によって支援することもでき支援できないこともある。北朝鮮を軍事的に支援する決定の有無は条約の内容と特に関係はない。こうした条項がなくてもロシアは自身の戦略のために北朝鮮が敢行する侵攻を支持すると決めるならば条約と関係なく北朝鮮を支援するためだ。
2番目に繰り返される話はロシアが北朝鮮に軍事技術を移転することにより韓半島で戦略的なバランスを破壊しかねないという主張だ。ロシアが北朝鮮に最新軍事技術を移転するのは完全に不可能なことではないが、可能性はそれほど高くない。基本的な理由はロシアの国益だ。ロシアが北朝鮮に軍事技術を移転する場合、北朝鮮がこうして得た技術を思い通りに使用できるということが問題だ。北朝鮮はロシアから得た技術を利用して独自の武器を製作し安い価格で売ることもできる。これはすでに発生している状況だ。より悪いシナリオもある。北朝鮮がロシアと関係が良くない国にこうした技術を売るシナリオだ。
ロシアが昨年、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長を宇宙センターに招待しミサイル技術移転の可能性を暗示したのは事実だ。このようにした理由は何より韓国に対する外交圧力手段だった。当時ロシアは韓国が対ウクライナ殺傷武器支援を開始するならばロシアも報復措置としてミサイル技術を北朝鮮にわたすことを暗示した。しかし韓国がウクライナに殺傷武器支援をしないため、ロシアがこうした報復措置をする必要があるようにはみえない。もちろん規模が大きくない軍事技術移転は依然として可能だ。例えばロシアは北朝鮮の偵察衛星計画に対する支援が可能だ。しかし軍事技術移転の規模が大きいほど移転の可能性は低い。
多くのウォッチャーはロシアの「対北朝鮮制裁をよく守らない」という言説を多く強調している。それだけでなくロシアは「国連安保理が対北朝鮮制裁を大きく変更すべき」と宣言した。しかし制裁問題は思ったほど重要ではない。もちろん対北朝鮮制裁は北朝鮮経済に激しい影響を及ぼした。しかしロシアは国連安保理の制裁構造を変える力が少しもない。米国はいつでも自身の拒否権を利用してこうした変化を防ぐことができるためだ。そのためこうした話は中身のない外交的言説にすぎない。
ロシアは一般的に制裁を守らない可能性が本当に高い。しかしそうなる場合にも克服しにくい障害が残っている。ロシア経済と北朝鮮経済に互換性があまりない点だ。そのため朝ロ貿易は大きく成長しにくい。北朝鮮が世界市場でよく売れる品目は石炭、鉱物と水産物だ。ロシアは地下資源が豊富な国だ。これらの品目を北朝鮮から輸入する必要は少しもない。別の立場で北朝鮮はロシアの輸出品に対して興味はあるが、多く輸入できない理由がある。金がないためだ。
ソ連時代に朝ソ貿易が活発だったのは基本的に戦略的な理由のためソ連政府が北朝鮮との貿易にソ連の国家予算で多く支援したためだ。現在のロシアは同じ政策を行うこともできるがそうなる可能性はそれほど高くない。現在のロシアは過去のソ連より経済規模が小さいだけでなく、東欧や旧ソ連地域と違い北朝鮮を周辺的な地域とみなしている。
まさにそのためにロシアは中国に代わる北朝鮮の基本後援国になれないだろう。ロシア経済は中国経済と比較すれば10分の1規模にすぎず、モスクワが考える韓半島の戦略的な価値もやはり北京が韓半島をみる価値よりはるかに低い。
そのためプーチン氏の平壌訪問は例外的に騒がしい事件だったが南北の歴史で脚注としてだけ残る可能性が非常に高い。現在のロシアは北朝鮮を支援する意志があるといっても数十年間に固まった経済構造と国際関係構造を変える能力がないためだ。
アンドレイ・ランコフ/ソ連レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれの東洋学者であり韓半島研究家。金日成総合大学に留学した経験があり、レニングラード国立大学で韓国語と韓国史を教えた。オーストラリア国立大学を経て2004年から韓国国民大学教授として在職中。2013年にオバマ大統領の招きで訪米し対北朝鮮政策を助言したりもした。
筆者はこのような「画期的な変化」をもたらすと主張した事件を4~5年ごとに1回ずつ見ているが、その中で長期的な結果を残した事件はひとつもない。最近の事例は2018年の「韓半島の春」(同年の南北首脳会談などの交流)だ。当時ソウルで韓半島はこれから永遠に違う道に進むという予測があふれた。しかしいま「韓半島の春」は忘れられてしまった。筆者が見るに、今回のプーチン氏の平壌(ピョンヤン)訪問も同様の事件、すなわちその時はとても騒がしいが数年以内に結果は特になく忘れられる事件だ。なぜそうなのか。
まず朝ロ双方は新しい条約で、侵略される場合に相互支援をするという条項を追加した。これは軍事同盟の復活だが特に新しいものではない。1961年に締結された朝ソ条約で同じ条項がすでにあったが、韓半島の状況に多くの影響を及ぼすことはできなかった。興味深いことに1968年のプエブロ号拉致事件当時、ソ連の外交官らは韓半島で戦争が勃発するならばソ連に参戦する義務はないという根拠を探した。外交官らはこの危機が北朝鮮の一方的行動のために起きたことを強調するならば危機に巻き込まれるのを回避できるという案を上部に報告した。
いまも似た状況ではないだろうか。核保有国になった北朝鮮を攻撃できる国は世界にひとつもない。反対に北朝鮮が隣国に対する侵略を敢行するならばロシアは状況によって支援することもでき支援できないこともある。北朝鮮を軍事的に支援する決定の有無は条約の内容と特に関係はない。こうした条項がなくてもロシアは自身の戦略のために北朝鮮が敢行する侵攻を支持すると決めるならば条約と関係なく北朝鮮を支援するためだ。
2番目に繰り返される話はロシアが北朝鮮に軍事技術を移転することにより韓半島で戦略的なバランスを破壊しかねないという主張だ。ロシアが北朝鮮に最新軍事技術を移転するのは完全に不可能なことではないが、可能性はそれほど高くない。基本的な理由はロシアの国益だ。ロシアが北朝鮮に軍事技術を移転する場合、北朝鮮がこうして得た技術を思い通りに使用できるということが問題だ。北朝鮮はロシアから得た技術を利用して独自の武器を製作し安い価格で売ることもできる。これはすでに発生している状況だ。より悪いシナリオもある。北朝鮮がロシアと関係が良くない国にこうした技術を売るシナリオだ。
ロシアが昨年、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長を宇宙センターに招待しミサイル技術移転の可能性を暗示したのは事実だ。このようにした理由は何より韓国に対する外交圧力手段だった。当時ロシアは韓国が対ウクライナ殺傷武器支援を開始するならばロシアも報復措置としてミサイル技術を北朝鮮にわたすことを暗示した。しかし韓国がウクライナに殺傷武器支援をしないため、ロシアがこうした報復措置をする必要があるようにはみえない。もちろん規模が大きくない軍事技術移転は依然として可能だ。例えばロシアは北朝鮮の偵察衛星計画に対する支援が可能だ。しかし軍事技術移転の規模が大きいほど移転の可能性は低い。
多くのウォッチャーはロシアの「対北朝鮮制裁をよく守らない」という言説を多く強調している。それだけでなくロシアは「国連安保理が対北朝鮮制裁を大きく変更すべき」と宣言した。しかし制裁問題は思ったほど重要ではない。もちろん対北朝鮮制裁は北朝鮮経済に激しい影響を及ぼした。しかしロシアは国連安保理の制裁構造を変える力が少しもない。米国はいつでも自身の拒否権を利用してこうした変化を防ぐことができるためだ。そのためこうした話は中身のない外交的言説にすぎない。
ロシアは一般的に制裁を守らない可能性が本当に高い。しかしそうなる場合にも克服しにくい障害が残っている。ロシア経済と北朝鮮経済に互換性があまりない点だ。そのため朝ロ貿易は大きく成長しにくい。北朝鮮が世界市場でよく売れる品目は石炭、鉱物と水産物だ。ロシアは地下資源が豊富な国だ。これらの品目を北朝鮮から輸入する必要は少しもない。別の立場で北朝鮮はロシアの輸出品に対して興味はあるが、多く輸入できない理由がある。金がないためだ。
ソ連時代に朝ソ貿易が活発だったのは基本的に戦略的な理由のためソ連政府が北朝鮮との貿易にソ連の国家予算で多く支援したためだ。現在のロシアは同じ政策を行うこともできるがそうなる可能性はそれほど高くない。現在のロシアは過去のソ連より経済規模が小さいだけでなく、東欧や旧ソ連地域と違い北朝鮮を周辺的な地域とみなしている。
まさにそのためにロシアは中国に代わる北朝鮮の基本後援国になれないだろう。ロシア経済は中国経済と比較すれば10分の1規模にすぎず、モスクワが考える韓半島の戦略的な価値もやはり北京が韓半島をみる価値よりはるかに低い。
そのためプーチン氏の平壌訪問は例外的に騒がしい事件だったが南北の歴史で脚注としてだけ残る可能性が非常に高い。現在のロシアは北朝鮮を支援する意志があるといっても数十年間に固まった経済構造と国際関係構造を変える能力がないためだ。
アンドレイ・ランコフ/ソ連レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれの東洋学者であり韓半島研究家。金日成総合大学に留学した経験があり、レニングラード国立大学で韓国語と韓国史を教えた。オーストラリア国立大学を経て2004年から韓国国民大学教授として在職中。2013年にオバマ大統領の招きで訪米し対北朝鮮政策を助言したりもした。
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