過去を正確に評価してこそ未来の道を探すことができる。こうした面で最近出版された文在寅(ムン・ジェイン)大統領の回顧録は意味がある。前大統領が自ら北朝鮮非核化関連の内容を詳細に明らかにしているからだ。しかし結論的に大統領の知識と判断力の不足が失敗の主な理由であることを確認した。北朝鮮の非核化をめぐる複雑な構造と変化の激しい地政学を理解できなかったのが問題の根本だ。
大統領は金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の言葉だけを信じて、構造を見ることができなかった。金正恩委員長と対話して米朝会談を斡旋することにすべての関心を傾けただけで、非核化合意が可能な条件をつくる考えはしなかった。回顧録の複数の部分に見られるように、北朝鮮を交渉に導いた最も重要な力は2016-17年に発効した経済制裁だった。なら、これを強化して北朝鮮の核の価値を落としてこそ交渉妥結が可能だった。成功の可能性はあった。2017年下半期の制裁の強度が維持されたとすれば、2019年ごろには完全な非核化を目標に部分的な非核化と一部の制裁解除の開始も可能だった。しかし大統領は金正恩委員長をあまりにも早く交渉に呼び出した。2018年4月に板門店(パンムンジョム)会談が開かれた。また、非核化交渉の過程で制裁という友軍をむしろ制約条件と見なし、結果的に核の価値を引き上げた。ハノイ会談の失敗を予見していれば韓国が先制的に制裁を解除していたという遺憾まで吐露した。
ハノイ会談のノーディールを全く予想できなかったという大統領の答弁は理解しがたい。政府内でもハノイ会談で成果が出るか疑わしいという報告があったと聞いている。筆者は首脳会談の1カ月ほど前の「中央時評」で結果は楽観しがたいと分析した。米国も2019年1月の北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)の訪問目的を疑った。2月に開かれる首脳会談の直前であるため北朝鮮が出す非核化案を事前に議論するものと期待したが、いかなる言及もなかった。何か思惑があるという疑心を抱いた米官僚らはトランプ大統領に対し、専門家との相談なしには金正恩委員長の提案を絶対に受け入れてはいけないと強調したという。学者も知るワシントンの雰囲気を韓国の大統領が知らなかったというのは説明がつくだろうか。いったい大統領はどんな話を誰から聞いたのだろうか。
ハノイ会談ノーディールは米国の変心のためという指摘は事実でない。大統領の説明はこうだ。北朝鮮は民生用制裁だけでも解除されれば寧辺(ヨンビョン)核施設を解体すると提案したが、米国が突然、段階的接近法を捨ててこれを受け入れなかったとのことだ。しかし大統領はこの提案が金正恩委員長の策略だったことを知らない。北朝鮮が主張する「民生関連制裁」は2016年以降に実行された5つの経済制裁だ(民生という言葉自体が北朝鮮の策略だ)。その前の北朝鮮制裁は大量破壊兵器の生産を防ぐための制裁だったが、効果がなかった。北朝鮮はすべての制裁のうち経済制裁だけは解除してほしいということであり、これは段階的接近法に合うと主張した。しかし米国はこれが北朝鮮の欺まんであることに気づいた。トランプ大統領を相手に非人道的な民生制裁だけ解除してほしいという形でごまかし、実効性のあるすべての制裁を解除しようという隠密な企みであることを看破した。しかし文大統領は「北の要求をなぜ米国が過多だと判断したのか分からない」とし、むしろ米国を責めた。そしてボルトン氏のようなネオコンの妨害とトランプ大統領の政治的問題を理由に挙げた。このように「中心」と「辺境」を混同する。
地政学に対する理解不足も目につく。首脳会談場所にシンガポールを選択した米国の固執のため朝中の密着が生じたと大統領は話す。シンガポールに行くために金正恩委員長は中国の飛行機を利用するしかなく、そのために習近平主席と首脳会談をすることになったという意味だ。しかし両首脳の会談はすでに米朝首脳会談前に2回もあった。習近平主席は板門店会談の1カ月前と10日後、中国で金正恩委員長に会った。この時から朝中関係が復元され始めた。ここには韓国政府も一役買った。南北会談が朝中密着という地政学的波及効果を持たないよう努力するべきだったが、文在寅政権は板門店会談をあまりにも大きくした。韓国の仲裁で北朝鮮が親米国家になることを憂慮した中国は危機感を感じて金正恩委員長を急いで招請した。金委員長に中国の支援を確認させ、韓国と米国に対応してどう交渉するかを助言した。その結果、北朝鮮の非核化ははるかに難しくなった。
知識を備え、考えることができ、バランスが取れた判断を下すことができてこそ良いリーダーだ。回顧録ではこうしたリーダーの姿が見られなかった。力は注いだが、考えでなく本能で動き、目標だけを眺めて問題の複合性の理解が不足した。それで『辺境から中心へ』という題名は響かなかった。本で最も同意できたのは最初のページに出てくる部分だ。「わが国民はいつでもさらに遠く進む底力を持っています」。なら、結局は大統領の問題ではないのか。
キム・ビョンヨン/ソウル大客員教授・経済学部
大統領は金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の言葉だけを信じて、構造を見ることができなかった。金正恩委員長と対話して米朝会談を斡旋することにすべての関心を傾けただけで、非核化合意が可能な条件をつくる考えはしなかった。回顧録の複数の部分に見られるように、北朝鮮を交渉に導いた最も重要な力は2016-17年に発効した経済制裁だった。なら、これを強化して北朝鮮の核の価値を落としてこそ交渉妥結が可能だった。成功の可能性はあった。2017年下半期の制裁の強度が維持されたとすれば、2019年ごろには完全な非核化を目標に部分的な非核化と一部の制裁解除の開始も可能だった。しかし大統領は金正恩委員長をあまりにも早く交渉に呼び出した。2018年4月に板門店(パンムンジョム)会談が開かれた。また、非核化交渉の過程で制裁という友軍をむしろ制約条件と見なし、結果的に核の価値を引き上げた。ハノイ会談の失敗を予見していれば韓国が先制的に制裁を解除していたという遺憾まで吐露した。
ハノイ会談のノーディールを全く予想できなかったという大統領の答弁は理解しがたい。政府内でもハノイ会談で成果が出るか疑わしいという報告があったと聞いている。筆者は首脳会談の1カ月ほど前の「中央時評」で結果は楽観しがたいと分析した。米国も2019年1月の北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)の訪問目的を疑った。2月に開かれる首脳会談の直前であるため北朝鮮が出す非核化案を事前に議論するものと期待したが、いかなる言及もなかった。何か思惑があるという疑心を抱いた米官僚らはトランプ大統領に対し、専門家との相談なしには金正恩委員長の提案を絶対に受け入れてはいけないと強調したという。学者も知るワシントンの雰囲気を韓国の大統領が知らなかったというのは説明がつくだろうか。いったい大統領はどんな話を誰から聞いたのだろうか。
ハノイ会談ノーディールは米国の変心のためという指摘は事実でない。大統領の説明はこうだ。北朝鮮は民生用制裁だけでも解除されれば寧辺(ヨンビョン)核施設を解体すると提案したが、米国が突然、段階的接近法を捨ててこれを受け入れなかったとのことだ。しかし大統領はこの提案が金正恩委員長の策略だったことを知らない。北朝鮮が主張する「民生関連制裁」は2016年以降に実行された5つの経済制裁だ(民生という言葉自体が北朝鮮の策略だ)。その前の北朝鮮制裁は大量破壊兵器の生産を防ぐための制裁だったが、効果がなかった。北朝鮮はすべての制裁のうち経済制裁だけは解除してほしいということであり、これは段階的接近法に合うと主張した。しかし米国はこれが北朝鮮の欺まんであることに気づいた。トランプ大統領を相手に非人道的な民生制裁だけ解除してほしいという形でごまかし、実効性のあるすべての制裁を解除しようという隠密な企みであることを看破した。しかし文大統領は「北の要求をなぜ米国が過多だと判断したのか分からない」とし、むしろ米国を責めた。そしてボルトン氏のようなネオコンの妨害とトランプ大統領の政治的問題を理由に挙げた。このように「中心」と「辺境」を混同する。
地政学に対する理解不足も目につく。首脳会談場所にシンガポールを選択した米国の固執のため朝中の密着が生じたと大統領は話す。シンガポールに行くために金正恩委員長は中国の飛行機を利用するしかなく、そのために習近平主席と首脳会談をすることになったという意味だ。しかし両首脳の会談はすでに米朝首脳会談前に2回もあった。習近平主席は板門店会談の1カ月前と10日後、中国で金正恩委員長に会った。この時から朝中関係が復元され始めた。ここには韓国政府も一役買った。南北会談が朝中密着という地政学的波及効果を持たないよう努力するべきだったが、文在寅政権は板門店会談をあまりにも大きくした。韓国の仲裁で北朝鮮が親米国家になることを憂慮した中国は危機感を感じて金正恩委員長を急いで招請した。金委員長に中国の支援を確認させ、韓国と米国に対応してどう交渉するかを助言した。その結果、北朝鮮の非核化ははるかに難しくなった。
知識を備え、考えることができ、バランスが取れた判断を下すことができてこそ良いリーダーだ。回顧録ではこうしたリーダーの姿が見られなかった。力は注いだが、考えでなく本能で動き、目標だけを眺めて問題の複合性の理解が不足した。それで『辺境から中心へ』という題名は響かなかった。本で最も同意できたのは最初のページに出てくる部分だ。「わが国民はいつでもさらに遠く進む底力を持っています」。なら、結局は大統領の問題ではないのか。
キム・ビョンヨン/ソウル大客員教授・経済学部
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