＃１．トランプ前米大統領側は共和党大統領候補のテレビ討論会が開かれた１１月８日、各候補の声を変調して嘲弄式のニックネームで候補を紹介する動画をソーシャルメディアに載せた。ニッキー・ヘイリー元サウスカロライナ州知事が登場する時、彼女を真似た機械音が「ニッキー・ヘイリー・まぬけ」と紹介するようにだ。この映像クリップはトランプ陣営が人工知能（ＡＩ）を活用した音声複製技術で制作した。

＃２．バイデン米大統領は１０月３０日、ＡＩ規制を強化する内容の行政命令に署名しながら、自身を真似たディープフェイク映像に「私がいつそんなことを言ったのか」と話したという経験談を伝えた。１月に性的少数者を蔑視する内容のフェイク演説場面を具現した映像に、大統領も一瞬錯覚したということだった。

テキスト・イメージ・オーディオを生成してディープフェイク（ディープラーニングとフェイクの合成語で人工知能を基盤とする特定人物のイメージ・映像合成）動画を制作するＡＩ技術が、来年１１月の米大統領選挙を控えて有権者に誤った情報を広め、選挙システムへの不信感が深まるという懸念が米国で強まっている。進化するＡＩ技術が選挙戦の版図を変えるだけでなく民主主義を脅かすという警告が続いている。


米政治専門紙「ザ・ヒル」は２５日（現地時間）、 「来年の米大統領選でＡＩが特定の候補やイシューに誤解を招く情報や虚偽情報を流布するのに悪意的に使用されるおそれがある」と警告した。また、シカゴ大ハリス公共政策大学院の学長の発言を引用し、「２０１６年・２０２０年が『ソーシャルメディア選挙』だったように、２０２４年は『ＡＩ選挙』になるだろう」と予想した。

◆「３年前はＳＮＳ選挙、来年はＡＩ選挙」

米国有権者の間でもＡＩが選挙に及ぼす影響に対する懸念が強まっている。先月初めに公開されたシカゴ大ハリス公共政策大学院とＡＰ通信・世論調査センター（ＮＯＲＣ）の共同調査の結果によると、米国の成人の５８％は「２０２４年の大統領選挙ではＡＩ技術により虚偽情報がさらに広がる」と予想した。

プラットホーム企業もＡＩを活用した政治キャンペーンへの対応を急いでいる。グーグルは今年初め、デジタル方式で制作・加工された選挙広告の場合「明確に公開」するように要求すると発表した。フェイスブックの親会社メタは政治広告で実在人物がしていない発言や行動を新しく生成したり変調したりする場合、これを公開する計画と明らかにした。

半面、選挙管理と選挙運動の効率性の面でＡＩ技術の機能に注目する見方もある。特定イシューに対する各候補の立場を有権者に知らせたり、選挙管理当局が有権者リストを整理する過程で重複登録を防ぐのに役立つということだ。

問題はソーシャルメディアが選挙に導入されて表れた副作用をＡＩがさらに悪化させると考えられる点だ。トランプ候補とヒラリー・クリントン候補が競合した２０１６年の大統領選挙ではフェイクニュースがソーシャルメディアを通じて拡大した。特定政治性向のブログやウェブサイトで「フランシスコ教皇がトランプ候補支持を発表した」「クリントン候補がテロ団体ＩＳに武器を販売したことが明らかになった」などのフェイクニュースが制作されると、ＳＮＳを通じて広まった。

今はディープフェイク技術の高度化で偽コンテンツをより一層容易に、迅速に、精巧に生産して広めることができるという点で深刻性はさらに深まった。カリフォルニア州立大政治学科のブライアント教授はインスタグラムのようなプラットホームでの広告が人々の行動にすでに相当な影響を及ぼすという点を挙げながら「誰もがこうした構造から完全に自由にはなれないだろう」と話した。

選挙管理当局が「デジタル署名」などを活性化して情報の信頼度を高めるべきだという指摘が出ている。非営利団体「民主主義保護」の技術政策担当ニコル・シュナイダーマン氏は「事前暴露（Ｐｒｅ－ｂｕｎｋｉｎｇ、虚偽情報に露出する前にあらかじめ公開してリスクを減らす）方式が効果的」とし「選挙管理者がデジタル署名をさらに導入し、メディア関係者や大衆にどの情報が信頼できるところから出たか、どの情報が偽物かと知らせることを望む」と述べた。


ＡＩが米大統領選を揺るがす…有権者５８％「フェイクニュースさらに拡大」（２）