１３日午前、ヒョンデ（現代自動車）の蔚山（ウルサン）工場にある電気自動車（ＥＶ）新工場用地で開かれたＥＶ専用工場起工式。行事の中ごろに突然鄭周永（チョン・ジュヨン）現代グループ先代会長（故人）の声が５００万平方メートルの工場の中に大きく響きわたった。

「１日で先進国の自動車業界に達するのは難しいが、われわれが努力しただけの成果を得られる市場は世界の随所にあります。この夢は必ず実現させられます。遠からずわれわれの自動車が世界市場を席巻する日が来ると私は確信します」。

◇起工式で鄭周永会長の肉声をＡＩで再現


人工知能（ＡＩ）技術を通じ鄭周永先代会長の自叙伝『この地に生まれて』『試練はあっても失敗はない』に出てきた内容を再現したものだ。彼が１９６８年に単純な組み立て工場として建てた蔚山工場はいまでは年間１４０万台の新車を作る「世界最大規模の自動車単一工場」へと飛躍した。彼の息子である鄭夢九（チョン・モング）現代自動車グループ名誉会長、孫の鄭義宣（チョン・ウィソン）現代自動車グループ会長を経てだ。現場でこの言葉を聞いた鄭義宣会長は感極まった表情を浮かべながら「先代会長が考えた精神、そして『やればできる』という考えでわれわれは一緒に努力する覚悟」と決意した。

この日鄭会長は韓国の自動車産業を胎動させたヒョンデ蔚山工場が年間２０万台の電気自動車を生産する「革新モビリティ基地」に変貌すると宣言した。これを基にエンジン車の半世紀の歴史を超え「電動化１００年企業」へと跳躍するという事業ビジョンだ。その上で「今後５０年の電動化時代に向けたまた別の始まり」と意味を付与した。自動車不毛の地から単一規模で世界１位の自動車工場、そして未来革新モビリティの中心として生まれ変わるという構想がＥＶ専用工場として具体化したのだ。蔚山ＥＶ専用工場は総額２兆ウォンを投じ２０２５年に完工予定で、１９９６年の牙山（アサン）工場から２９年ぶりとなるヒョンデの国内新工場だ。総合性能試験場があった５４万８０００平方メートルの用地を建設地に決めた。最初の生産モデルはジェネシスの超大型スポーツ多目的車（ＳＵＶ）の電気自動車モデルになる見通しだ。量産は２０２６年１－３月期からだ。

ヒョンデは最近世界の電気自動車市場の成長が停滞する中でも投資の手を緩めていない。米ジョージア州のＥＶ工場だけでなく今回のＥＶ専用工場も支障なく投資を執行する方針だ。

有進投資証券のイ・ジェイル研究員はこれについて「短期的に市場が揺らいだからと電動化転換を延期するならばむしろ後で失策になる可能性がある。欧米の自動車メーカーは既存の電動化転換を繰り上げようとしてブレーキがかかったもの。ヒョンデは本来の計画通りに電動化戦略を推進するものなので状況が違う」と話した。

ＥＶ専用工場が韓国で初めて作られるという意味も格別だ。ＥＶは部品数がエンジン車の約３万個に対し３分の１水準にすぎず、作業工程も完全に違う。蔚山ＥＶ専用工場には最先端設備とともに多様なモデルを生産する柔軟生産システムが導入され、シンガポールにある同社のグローバル革新センター（ＨＭＧＩＣＳ）が構築した製造革新プラットフォームも導入する。

◇「テスラのギガファクトリーと効率性競争」

自動車融合技術院イ・ハングの院長は「既存のエンジン車工場でＥＶをともに生産する方式では世界１位のテスラが作ったギガファクトリーの生産効率に追いつけないだろうと判断したようだ。果敢な自動化とデジタル化で原価を削減すれば安いＥＶ生産も可能だろう」と予想した。イ・ジェイル研究員は「ジョージア州新工場（メタプラント）の稼動は現地需要により左右される。国内工場と現地の生産台数を適切に配分する戦略が効果的」と評価した。

鄭会長はこの日も普段からの持論である人本主義経営哲学を強調した。彼は「ヒョンデが革新する究極的な目的は結局人のためのもの。人本主義の価値を商品だけでなく商品を開発して生産する事業所の人にも向かえるようにしたい」と話した。

専門家らは企業が新しい技術と生産方式を通じて国内投資に出ただけに、政府も支援すべきと提言する。自動車産業協会会長を務めた国民大学のユ・ジス教授は「１００年電動化企業になるためには堅固な内需確保を基盤に規模の経済を達成しなければならない。国レベルで充電器拡充などインフラ構築を拡大し、走行距離に対する不安を解消しなければならないだろう」と指摘した。

一方、この日の起工式には鄭会長と張在勲（チャン・ジェフン）社長、李東錫（イ・ドンソク）国内生産担当副社長ら現代自動車グループ経営陣と、金斗謙（キム・ドゥギョム）蔚山市長、張瑛真（チャン・ヨンジン）産業通商資源部第１次官、与党「国民の力」の李埰益（イ・チェイク）、朴聖敏（パク・ソンミン）議員、「共に民主党」の李相憲（イ・サンホン）議員らが参加した。