工場にはロボットが人よりも多かった。ロボットは長く続く銅板を切りヘアピン形に折りたたんだ。成型作業が終わると別のロボットが折りたたまれた銅板を円形の金属に順番通り組み込んだ。カメラレンズを装着した人工知能(AI)は組み立て過程で微細な乱れがないかチェックした。
先月22日、大邱市達城郡(テグシ・タルソングン)のテクノポリスに位置した現代モービス電動化生産拠点では、いわゆる「電気自動車の心臓」の組み立ての真っ最中だった。PEシステムと呼ばれる電気自動車の心臓は、電気自動車のモーターとインバータ、減速機を組み合わせて作る核心部品だ。
◇初公開された「電気自動車の心臓」組み立てライン
2021年3月に開設されたここではヒョンデの「アイオニック5」と起亜「EV6」、ジェネシスの電気自動車のPEシステムを作っている。世界的自動車メーカーはいずれもPEシステムを自社で製作する。技術と生産工程は極秘だ。現代モービスが電動化生産拠点をメディアに公開したのは今回が初めてだ。
現代自動車グループは昨年海外で561万8246台の自動車を販売した。韓国国内での販売台数122万9952台の4.6倍だ。米フォードの「コルティナ」を組み立てて売っていた「内需企業」から半世紀で日本のトヨタ、ドイツのフォルクスワーゲンに次いで世界3位の自動車メーカーに浮上した。フォードを抜いて久しい。
このような急速な成長の背景には、ヒョンデならでは「マザーファクトリー戦略」がある。マザーファクトリーは最新の技術力を集中した所で、他の生産工場のモデルになる場所だ。例えばLGエレクトロニクスの昌原(チャンウォン)スマートパーク、サムスン電子亀尾(クミ)工場などだ。現代自動車グループは多くの試行錯誤を経て独自の工場プラットフォームを開発し、これを海外生産拠点にそのまま移すことで、生産性を高めて不良率を低くする戦略を駆使している。
◇世界に「移植」準備中の大邱モデル
現代モービスの大邱拠点が現代自動車グループの代表的なマザーファクトリーだ。現代モービスはこの2年間、イタリアと日本から装備などを持ち込みPEシステム生産において最適なレシピ(解決案)を見つけ出し国産化にも成功した。現代モービスは大邱拠点をモデルとして内外に電動化生産拠点を拡張し市場を先導する計画だ。要するに「コピー&ペースト戦略」だ。
これを通じて建設期間を短縮し生産を最大限繰り上げることができる。製品量産過程で避けられない試行錯誤を減らすことができるのもマザーファクトリー戦略の長所だ。現代モービスのチョン・インボ電動化生産管理室長は「4月から国産設備で構築したラインでもPEシステムを生産している」と話した。
ここに現代製鉄から現代モービス、現代トランシスなどグループ内の主要系列会社がともに進出する。自動車鋼板から部品までサプライチェーンを独自に構築するためだ。主要協力会社もともにする。ヒョンデの場合、協力会社749社が海外にともに進出した。具体的には1次協力会社349社と2次協力会社400社だ。
現代モービスは米ジョージア州サバンナに大邱拠点をまねた生産拠点を建設中だ。大邱拠点の「子ども」に当たるサバンナ拠点の工程率は現在10%水準だ。チョン室長は「大邱の設備の短所を補完した後、今年末ごろには米国に作っている拠点にも韓国国内と同じ装備を搬入し設置する予定」と話した。
周辺では現代自動車グループが6兆3000億ウォンを投資した電気自動車専用組み立て工場とバッテリーセル工場建設の真っ最中だ。現代自動車グループ初の海外電気自動車専用生産地であるサバンナは敷地だけで1183万平方メートルあり、年間30万台の電気自動車を量産できる。主要系列会社だけでなく協力会社48社がヒョンデと組んで現地事業所を運営している。
◇米電気自動車工場完工6カ月前倒しか
電気自動車生産施設の「現地化」は現代自動車グループにとって当面の課題だ。4月から本格的に適用されたインフレ抑制法によりヒョンデの米国での電気自動車販売台数は明らかに減った。1-3月期のヒョンデと起亜の米国での電気自動車販売台数は1万4703台にとどまり、前年同期比6.5%減った。現地で生産した電気自動車購入時には1台当たり最高7500ドルが支援されるためだ。
現地生産が唯一の解決策だ。現代自動車グループが工事期間短縮に集中している理由でもある。このような時もマザーファクトリー戦略が効果的だ。工場建設を半年ほど短縮できるためだ。現代自動車グループ関係者は「当初サバンナ工場では2025年上半期から電気自動車を生産しようと計画していたが内部的に来年下半期に繰り上げる」と話した。
ヒョンデはサバンナ工場に需要中心のAI基盤知能型制御システムと低炭素工法など新しいソフトウエアも適用する計画だ。翰林(ハンリム)大学人工知能融合学部のチョン・テギョン教授は「サバンナ工場はソフトウエア基盤のマザーファクトリーになるものとみられる。サバンナで最適な生産ソフトウエアを準備した後、欧州など他の地域の電気自動車専用工場にも適用するだろう」と予想した。
◇「カナダ政府1ドルで50万坪提供」で安易に進出
ヒョンデの現地化戦略は初めから順調だったわけではない。最初の進出はむしろ悪夢として残っている。1996年2月、ヒョンデはカナダのブロモンにある工場の閉鎖を決め清算作業に入った。韓国企業初の海外自動車工場と記録されたブロモン工場は1989年に稼動を開始したが、現地での販売不振から1993年には無期限稼動停止に入った状態だった。
稼動から4年で工場が止まったのは戦略が不十分だったためだ。韓国から部品を持って行きカナダで組み立て北米に販売する方式は高い運送費のため最初から収益が出ることのない構造だった。カナダ政府が165万平方メートル規模の土地を1ドルで提供するという言葉に十分な市場調査もせず工場建設に出たのも失敗の原因に挙げられる。現代自動車グループ元社長のA氏はこれに対し「即興的で政治的な決定だった」と打ち明けた。
その後ブロモンで使っていた大型プレス機は1998年に開設されたインドのチェンナイ工場に移された。だがプレス機以外の残りの設備の大部分はくず鉄として廃棄処分した。当時の金額で2億9000万ドルを投資した工場はこうして門を閉めた。現代自動車会長を務めた鄭世永(チョン・セヨン)現代産業開発名誉会長(故人)は自叙伝で「十分な市場調査をせず北米工場を建設したことがどれほど愚かで性急な決定だったか骨身に染みるほど感じた」と吐露することもした。
◇鄭夢九「マイナーから大リーガーへ」宣言
ヒョンデが北米市場に2度目の進出の意向を示したのは「ブロモンの悪夢」から9年後だ。2002年4月に着工し2005年5月に竣工した米アラバマ工場だ。アラバマ工場は2000年に現代自動車が現代グループから系列分離した後、鄭夢九(チョン・モング)現代自動車グループ名誉会長がドライブをかけた初めての大規模プロジェクトだった。692万平方メートルの敷地に11億ドルを投資し年間生産能力30万台規模の工場を作った。
初めての商品は「EFソナタ」の後続モデルである「ニューソナタ」だった。鄭夢九名誉会長は竣工式で「韓国車はこれ以上町外れのマイナーリーガーではなく世界的大リーガーとして世界の自動車産業の中心に席を占めたことを意味する」と宣言した。
<ヒョンデ研究>「コピー&ペースト」で子工場作る、ブロモンの悪夢が生んだ現地化戦略(2)
先月22日、大邱市達城郡(テグシ・タルソングン)のテクノポリスに位置した現代モービス電動化生産拠点では、いわゆる「電気自動車の心臓」の組み立ての真っ最中だった。PEシステムと呼ばれる電気自動車の心臓は、電気自動車のモーターとインバータ、減速機を組み合わせて作る核心部品だ。
◇初公開された「電気自動車の心臓」組み立てライン
2021年3月に開設されたここではヒョンデの「アイオニック5」と起亜「EV6」、ジェネシスの電気自動車のPEシステムを作っている。世界的自動車メーカーはいずれもPEシステムを自社で製作する。技術と生産工程は極秘だ。現代モービスが電動化生産拠点をメディアに公開したのは今回が初めてだ。
現代自動車グループは昨年海外で561万8246台の自動車を販売した。韓国国内での販売台数122万9952台の4.6倍だ。米フォードの「コルティナ」を組み立てて売っていた「内需企業」から半世紀で日本のトヨタ、ドイツのフォルクスワーゲンに次いで世界3位の自動車メーカーに浮上した。フォードを抜いて久しい。
このような急速な成長の背景には、ヒョンデならでは「マザーファクトリー戦略」がある。マザーファクトリーは最新の技術力を集中した所で、他の生産工場のモデルになる場所だ。例えばLGエレクトロニクスの昌原(チャンウォン)スマートパーク、サムスン電子亀尾(クミ)工場などだ。現代自動車グループは多くの試行錯誤を経て独自の工場プラットフォームを開発し、これを海外生産拠点にそのまま移すことで、生産性を高めて不良率を低くする戦略を駆使している。
◇世界に「移植」準備中の大邱モデル
現代モービスの大邱拠点が現代自動車グループの代表的なマザーファクトリーだ。現代モービスはこの2年間、イタリアと日本から装備などを持ち込みPEシステム生産において最適なレシピ(解決案)を見つけ出し国産化にも成功した。現代モービスは大邱拠点をモデルとして内外に電動化生産拠点を拡張し市場を先導する計画だ。要するに「コピー&ペースト戦略」だ。
これを通じて建設期間を短縮し生産を最大限繰り上げることができる。製品量産過程で避けられない試行錯誤を減らすことができるのもマザーファクトリー戦略の長所だ。現代モービスのチョン・インボ電動化生産管理室長は「4月から国産設備で構築したラインでもPEシステムを生産している」と話した。
ここに現代製鉄から現代モービス、現代トランシスなどグループ内の主要系列会社がともに進出する。自動車鋼板から部品までサプライチェーンを独自に構築するためだ。主要協力会社もともにする。ヒョンデの場合、協力会社749社が海外にともに進出した。具体的には1次協力会社349社と2次協力会社400社だ。
現代モービスは米ジョージア州サバンナに大邱拠点をまねた生産拠点を建設中だ。大邱拠点の「子ども」に当たるサバンナ拠点の工程率は現在10%水準だ。チョン室長は「大邱の設備の短所を補完した後、今年末ごろには米国に作っている拠点にも韓国国内と同じ装備を搬入し設置する予定」と話した。
周辺では現代自動車グループが6兆3000億ウォンを投資した電気自動車専用組み立て工場とバッテリーセル工場建設の真っ最中だ。現代自動車グループ初の海外電気自動車専用生産地であるサバンナは敷地だけで1183万平方メートルあり、年間30万台の電気自動車を量産できる。主要系列会社だけでなく協力会社48社がヒョンデと組んで現地事業所を運営している。
◇米電気自動車工場完工6カ月前倒しか
電気自動車生産施設の「現地化」は現代自動車グループにとって当面の課題だ。4月から本格的に適用されたインフレ抑制法によりヒョンデの米国での電気自動車販売台数は明らかに減った。1-3月期のヒョンデと起亜の米国での電気自動車販売台数は1万4703台にとどまり、前年同期比6.5%減った。現地で生産した電気自動車購入時には1台当たり最高7500ドルが支援されるためだ。
現地生産が唯一の解決策だ。現代自動車グループが工事期間短縮に集中している理由でもある。このような時もマザーファクトリー戦略が効果的だ。工場建設を半年ほど短縮できるためだ。現代自動車グループ関係者は「当初サバンナ工場では2025年上半期から電気自動車を生産しようと計画していたが内部的に来年下半期に繰り上げる」と話した。
ヒョンデはサバンナ工場に需要中心のAI基盤知能型制御システムと低炭素工法など新しいソフトウエアも適用する計画だ。翰林(ハンリム)大学人工知能融合学部のチョン・テギョン教授は「サバンナ工場はソフトウエア基盤のマザーファクトリーになるものとみられる。サバンナで最適な生産ソフトウエアを準備した後、欧州など他の地域の電気自動車専用工場にも適用するだろう」と予想した。
◇「カナダ政府1ドルで50万坪提供」で安易に進出
ヒョンデの現地化戦略は初めから順調だったわけではない。最初の進出はむしろ悪夢として残っている。1996年2月、ヒョンデはカナダのブロモンにある工場の閉鎖を決め清算作業に入った。韓国企業初の海外自動車工場と記録されたブロモン工場は1989年に稼動を開始したが、現地での販売不振から1993年には無期限稼動停止に入った状態だった。
稼動から4年で工場が止まったのは戦略が不十分だったためだ。韓国から部品を持って行きカナダで組み立て北米に販売する方式は高い運送費のため最初から収益が出ることのない構造だった。カナダ政府が165万平方メートル規模の土地を1ドルで提供するという言葉に十分な市場調査もせず工場建設に出たのも失敗の原因に挙げられる。現代自動車グループ元社長のA氏はこれに対し「即興的で政治的な決定だった」と打ち明けた。
その後ブロモンで使っていた大型プレス機は1998年に開設されたインドのチェンナイ工場に移された。だがプレス機以外の残りの設備の大部分はくず鉄として廃棄処分した。当時の金額で2億9000万ドルを投資した工場はこうして門を閉めた。現代自動車会長を務めた鄭世永(チョン・セヨン)現代産業開発名誉会長(故人)は自叙伝で「十分な市場調査をせず北米工場を建設したことがどれほど愚かで性急な決定だったか骨身に染みるほど感じた」と吐露することもした。
◇鄭夢九「マイナーから大リーガーへ」宣言
ヒョンデが北米市場に2度目の進出の意向を示したのは「ブロモンの悪夢」から9年後だ。2002年4月に着工し2005年5月に竣工した米アラバマ工場だ。アラバマ工場は2000年に現代自動車が現代グループから系列分離した後、鄭夢九(チョン・モング)現代自動車グループ名誉会長がドライブをかけた初めての大規模プロジェクトだった。692万平方メートルの敷地に11億ドルを投資し年間生産能力30万台規模の工場を作った。
初めての商品は「EFソナタ」の後続モデルである「ニューソナタ」だった。鄭夢九名誉会長は竣工式で「韓国車はこれ以上町外れのマイナーリーガーではなく世界的大リーガーとして世界の自動車産業の中心に席を占めたことを意味する」と宣言した。
<ヒョンデ研究>「コピー&ペースト」で子工場作る、ブロモンの悪夢が生んだ現地化戦略(2)
この記事を読んで…