専門家らは現代自動車グループの未来事業に対し肯定的な評価を下す。ハイ投資証券リサーチ本部長のコ・テボン氏は「一度得た未来技術力は消えない。特にロボットやUAMに使われる技術はすべて要素技術。たとえ投資が失敗したとしても技術と経験は残る。絶対に失敗ではない」と分析した。
◇社員と随時電子メール、外出時は秘書1人
経営者としての鄭会長のスタイルを一言で表現するなら「自分から」だ。2019年ソウルの本社社屋で「ゲームチェンジャー」を宣言する時、彼は毎年舞台を埋めていた役員席をすべてなくした。1月に南陽研究所で開かれた新年会(仕事初め)では最初から自身が社員らと直接疎通する方式を提案した。いまでも必要な場合には南陽研究所にいる研究員や、ソウル本社にいる担当実務者に直接電子メールを送ったり説明を聞いたりもする。単純に報告だけ受けるのでなく、質問を投げかけ意見を求めるためだ。外部行事には主に随行秘書1人で身軽に現れる。ソウル本社に半ズボンとフリースを登場させた「全面的服装自由化」と「役員職級・呼称体系縮小」「手書き決済廃止」など水平的で破格な措置も相次いで出した。
すぐに見える成果がなくても新事業部門に力を与える。ネイバー出身のソン・チャンヒョン代表をTaaS本部長(社長)に、米航空宇宙局(NASA)出身のシン・ジェウォン博士を直接米国に訪ねて三顧の礼の末にUAM事業部長(社長)に抜てきしたのが代表的だ。未来モビリティ時代を先導するためには純血主義よりは多様性と専門性が必要というのが鄭会長の所信だ。相対的に硬直した「側近」の代わりに柔軟な「集団知性」を選択したともいえる。
◇世界ビッグ3になった時ファンファーレはなかった
これは鄭会長の現実診断ともかみ合っている。ライバルを挙げてほしいという質問に彼は「勝たなければならないのはわれわれ自身」(2022年、記者懇談会)と答えた。他のヒョンデ幹部役員の反応も似ている。ヒョンデの競合会社やロールモデルがどの会社かという質問には「ない」と答える。当然他の企業との競争は存在するが、「グーグルカー」「アップルカー」などIT企業との融合が公然と行われる激変の時代にこれ以上トヨタやテスラだけを競争相手と考えることはできないという趣旨だ。
これは「世界ビッグ3」という成果に安住することはできない理由でもある。あるヒョンデ役員は「外では騒がしかったが中では『ファンファーレを鳴らすのはやめよう』という話が出た。自動車を超えたモビリティ時代に見合う中身をしっかり固めなければならないという慎重な雰囲気」と伝えた。
鄭会長は世界の電気自動車市場を主導するテスラに対しては「1カ月以上乗ってみて本当のオーナーになってみなさい」と勧める。実際に昨年末からソウルのヒョンデ本社の駐車場にはテスラが数台駐車されている。南陽研究所の研究員がテスラやBYDなど競合会社の車を分解して組み立てて研究したりしたが、「研究」を超え車のオーナーの立場から「体験」してみろというのが鄭会長の注文だ。
傾聴と実行力、集中力も彼の強みだ。2018年のヒョンデ理事会の時だった。ある社外理事が「毎年主に米アラバマ工場などに行っているが、『モビリティ企業』として生まれ変わるというだけに社外理事も世界最大の家電・IT見本市の消費者家電ショー(CES)をチェックする必要がある」という趣旨の意見を出した。鄭会長はすぐに「良いアイデアだ」と言って見学プログラムの内容を変更したという。ソウル大学経営学科のイ・ユジェ客員教授は「伝統的な現代は推進力と闘志、開拓精神を強調するが、鄭会長は既存の強みに加え『オープンイノベーション(開放型革新)』戦略まで備えた」と話す。
◇「鄭義宣式ディテール」…核心は
昨年末、京畿道高陽市一山(キョンギド・コヤンシ・イルサン)にあるヒョンデモータースタジオ。グループ社長団と世界各地の法人長が非公開で集まった。午前9時からノーベル経済学賞を受賞した米ニューヨーク市立大学のポール・クルーグマン教授ら碩学3人がそれぞれ90分間、合わせて5時間近く講演をした。
鄭会長はこの日10分ほど英語で開会あいさつを述べると最前列に座った。続けてスマートフォンすら片付けて熱中して講義を聞いた。休憩時間になるたびに社長らの間で「会長はまだ聞いておられる」という嘆き(?)が出てきたという。
ブルドーザーや軍隊文化を連想させる既存の「現代スタイル」を変えたのも鄭義宣式ディテールだ。その対象が商品であれ人であれ、細密さと配慮が際立って見えるという意味だ。
起亜代表から現代自動車副会長へ移った2010年ごろ、鄭会長は新車発売の写真広告を担当したチームをソウル本社の事務室に呼び出した。新車を撮った写真が問題になった。新車の写真がビニールもはがさないまま広報用写真に写っていたためだ。汚れを防ぐ用途でかぶせたビニールを外せば新車の値段で売ることができず「中古車」として売らなければならないために続いた慣行だった。鄭会長は「顧客はみんな見抜いている。ビニールのせいで広告効果が落ちてはならない。たいしたことではないとやり過ごさず、こうしたことに費用を惜しむのもやめよう」と話した。
「ポニー開発の一番の貢献者」に挙げられる李忠九(イ・チュング)元ヒョンデ社長が現役から退いた時のエピソードだ。33年間現代に身を置いた李元社長が最後に出勤した日、最初に電話をした人は鄭会長だった。
「鄭夢九会長にこってり絞られて会議を終えると一緒に出てきて『お茶でも一杯しよう』と部屋に来ます。そして20分ほど特に話もせずにお茶一杯だけ飲んで出て行きます。ただ時間をくれたのでしょう。だれより人を細かく取りまとめたのが鄭義宣会長でした」。
◇「時代は速く変わるか」「新事業だけ押し進めるか」
だが花道だけ予定されたのではない。期待ほど世の中の変化が速くないのではないかとの疑いも多い。今月14日、ソウル市内のホテルで開かれたH2サミット第2回総会。ヒョンデとSK、ポスコ、ハンファ、GS、コーロンなどが参加するH2は韓国大企業の「水素自動車同盟」と呼ばれる。
ヒョンデの水素電気自動車である「ネクソ」に乗るコーロングループの李圭鎬(イ・ギュホ)社長はこの日、「2021年に提示した水素プロジェクトのうち実現したのは10%ほどしかない」と苦言を呈した。ヒョンデの元幹部役員も「世の中は鄭会長が望むほど早く動かず悩みだ」と話した。また別の元役員は「たとえ変わるとしてもそれが収益になるかはまた別の問題」と指摘した。
内部では産みの苦しみも大きくなっている。実際にヒョンデはTaaS本部と先行技術院で代弁されるソフトウエア中心の「新進勢力」と、既存の内燃機関関連社員が賃金や処遇をめぐり神経戦を行っている。内燃機関自動車研究員は「なぜ金にならない新事業ばかり押し進めるのか」「お金はわれわれが稼いでいるのになぜ優先順位で後回しにされるのか」と不満を示す。ここに韓国最大の強硬派労組に挙げられるヒョンデ労組との関係確立も難しい宿題だ。この4年間ストに至らずに賃金団体協約交渉を終えたが、これからは容易ではないだろうという見通しも出ている。
延世(ヨンセ)大学経営学科のイ・ムウォン教授は「エンジン車と電気自動車の両方をしっかりやり遂げなければならない『両利きの経営』(Ambidextrous Organization、主力事業と新事業を同時に推進)がカギ」と診断した。その上で「両方ともしっかりやり遂げなければならず余力がある限り新事業にも果敢な投資を続けなければならない」と注文した。
<ヒョンデ研究>「なぜ新車のビニールはがさないのか」ヒョンデを脱ぎ捨てる「鄭義宣スタイル」(1)
◇社員と随時電子メール、外出時は秘書1人
経営者としての鄭会長のスタイルを一言で表現するなら「自分から」だ。2019年ソウルの本社社屋で「ゲームチェンジャー」を宣言する時、彼は毎年舞台を埋めていた役員席をすべてなくした。1月に南陽研究所で開かれた新年会(仕事初め)では最初から自身が社員らと直接疎通する方式を提案した。いまでも必要な場合には南陽研究所にいる研究員や、ソウル本社にいる担当実務者に直接電子メールを送ったり説明を聞いたりもする。単純に報告だけ受けるのでなく、質問を投げかけ意見を求めるためだ。外部行事には主に随行秘書1人で身軽に現れる。ソウル本社に半ズボンとフリースを登場させた「全面的服装自由化」と「役員職級・呼称体系縮小」「手書き決済廃止」など水平的で破格な措置も相次いで出した。
すぐに見える成果がなくても新事業部門に力を与える。ネイバー出身のソン・チャンヒョン代表をTaaS本部長(社長)に、米航空宇宙局(NASA)出身のシン・ジェウォン博士を直接米国に訪ねて三顧の礼の末にUAM事業部長(社長)に抜てきしたのが代表的だ。未来モビリティ時代を先導するためには純血主義よりは多様性と専門性が必要というのが鄭会長の所信だ。相対的に硬直した「側近」の代わりに柔軟な「集団知性」を選択したともいえる。
◇世界ビッグ3になった時ファンファーレはなかった
これは鄭会長の現実診断ともかみ合っている。ライバルを挙げてほしいという質問に彼は「勝たなければならないのはわれわれ自身」(2022年、記者懇談会)と答えた。他のヒョンデ幹部役員の反応も似ている。ヒョンデの競合会社やロールモデルがどの会社かという質問には「ない」と答える。当然他の企業との競争は存在するが、「グーグルカー」「アップルカー」などIT企業との融合が公然と行われる激変の時代にこれ以上トヨタやテスラだけを競争相手と考えることはできないという趣旨だ。
これは「世界ビッグ3」という成果に安住することはできない理由でもある。あるヒョンデ役員は「外では騒がしかったが中では『ファンファーレを鳴らすのはやめよう』という話が出た。自動車を超えたモビリティ時代に見合う中身をしっかり固めなければならないという慎重な雰囲気」と伝えた。
鄭会長は世界の電気自動車市場を主導するテスラに対しては「1カ月以上乗ってみて本当のオーナーになってみなさい」と勧める。実際に昨年末からソウルのヒョンデ本社の駐車場にはテスラが数台駐車されている。南陽研究所の研究員がテスラやBYDなど競合会社の車を分解して組み立てて研究したりしたが、「研究」を超え車のオーナーの立場から「体験」してみろというのが鄭会長の注文だ。
傾聴と実行力、集中力も彼の強みだ。2018年のヒョンデ理事会の時だった。ある社外理事が「毎年主に米アラバマ工場などに行っているが、『モビリティ企業』として生まれ変わるというだけに社外理事も世界最大の家電・IT見本市の消費者家電ショー(CES)をチェックする必要がある」という趣旨の意見を出した。鄭会長はすぐに「良いアイデアだ」と言って見学プログラムの内容を変更したという。ソウル大学経営学科のイ・ユジェ客員教授は「伝統的な現代は推進力と闘志、開拓精神を強調するが、鄭会長は既存の強みに加え『オープンイノベーション(開放型革新)』戦略まで備えた」と話す。
◇「鄭義宣式ディテール」…核心は
昨年末、京畿道高陽市一山(キョンギド・コヤンシ・イルサン)にあるヒョンデモータースタジオ。グループ社長団と世界各地の法人長が非公開で集まった。午前9時からノーベル経済学賞を受賞した米ニューヨーク市立大学のポール・クルーグマン教授ら碩学3人がそれぞれ90分間、合わせて5時間近く講演をした。
鄭会長はこの日10分ほど英語で開会あいさつを述べると最前列に座った。続けてスマートフォンすら片付けて熱中して講義を聞いた。休憩時間になるたびに社長らの間で「会長はまだ聞いておられる」という嘆き(?)が出てきたという。
ブルドーザーや軍隊文化を連想させる既存の「現代スタイル」を変えたのも鄭義宣式ディテールだ。その対象が商品であれ人であれ、細密さと配慮が際立って見えるという意味だ。
起亜代表から現代自動車副会長へ移った2010年ごろ、鄭会長は新車発売の写真広告を担当したチームをソウル本社の事務室に呼び出した。新車を撮った写真が問題になった。新車の写真がビニールもはがさないまま広報用写真に写っていたためだ。汚れを防ぐ用途でかぶせたビニールを外せば新車の値段で売ることができず「中古車」として売らなければならないために続いた慣行だった。鄭会長は「顧客はみんな見抜いている。ビニールのせいで広告効果が落ちてはならない。たいしたことではないとやり過ごさず、こうしたことに費用を惜しむのもやめよう」と話した。
「ポニー開発の一番の貢献者」に挙げられる李忠九(イ・チュング)元ヒョンデ社長が現役から退いた時のエピソードだ。33年間現代に身を置いた李元社長が最後に出勤した日、最初に電話をした人は鄭会長だった。
「鄭夢九会長にこってり絞られて会議を終えると一緒に出てきて『お茶でも一杯しよう』と部屋に来ます。そして20分ほど特に話もせずにお茶一杯だけ飲んで出て行きます。ただ時間をくれたのでしょう。だれより人を細かく取りまとめたのが鄭義宣会長でした」。
◇「時代は速く変わるか」「新事業だけ押し進めるか」
だが花道だけ予定されたのではない。期待ほど世の中の変化が速くないのではないかとの疑いも多い。今月14日、ソウル市内のホテルで開かれたH2サミット第2回総会。ヒョンデとSK、ポスコ、ハンファ、GS、コーロンなどが参加するH2は韓国大企業の「水素自動車同盟」と呼ばれる。
ヒョンデの水素電気自動車である「ネクソ」に乗るコーロングループの李圭鎬(イ・ギュホ)社長はこの日、「2021年に提示した水素プロジェクトのうち実現したのは10%ほどしかない」と苦言を呈した。ヒョンデの元幹部役員も「世の中は鄭会長が望むほど早く動かず悩みだ」と話した。また別の元役員は「たとえ変わるとしてもそれが収益になるかはまた別の問題」と指摘した。
内部では産みの苦しみも大きくなっている。実際にヒョンデはTaaS本部と先行技術院で代弁されるソフトウエア中心の「新進勢力」と、既存の内燃機関関連社員が賃金や処遇をめぐり神経戦を行っている。内燃機関自動車研究員は「なぜ金にならない新事業ばかり押し進めるのか」「お金はわれわれが稼いでいるのになぜ優先順位で後回しにされるのか」と不満を示す。ここに韓国最大の強硬派労組に挙げられるヒョンデ労組との関係確立も難しい宿題だ。この4年間ストに至らずに賃金団体協約交渉を終えたが、これからは容易ではないだろうという見通しも出ている。
延世(ヨンセ)大学経営学科のイ・ムウォン教授は「エンジン車と電気自動車の両方をしっかりやり遂げなければならない『両利きの経営』(Ambidextrous Organization、主力事業と新事業を同時に推進)がカギ」と診断した。その上で「両方ともしっかりやり遂げなければならず余力がある限り新事業にも果敢な投資を続けなければならない」と注文した。
<ヒョンデ研究>「なぜ新車のビニールはがさないのか」ヒョンデを脱ぎ捨てる「鄭義宣スタイル」(1)
この記事を読んで…