ロシアのウラル山脈近隣都市エカテリンブルクの飲食店。先月３０日午後、ある米国人が入った。ウォールストリートジャーナル（ＷＳＪ）所属のモスクワ特派員、エバン・ゲルシュコビチ氏だ。３１歳のゲルシュコビチ氏は英エコノミストとＢＢＣ、仏ＡＦＰ、米ニューヨークタイムズ（ＮＹＴ）など有数のメディアに記事を書いて経歴を積んだ後、ＷＳＪに入社した。多くのメディアで活動したが彼の関心分野は一つ、ロシアだった。

彼はこの日、取材のためにエカテリンブルクを訪れた後、遅い昼食のために飲食店に入った。彼の同僚が「今日の健闘を祈る」とメッセージを送り、彼は「ありがとう、取材して状況を報告する」と答えた。その後、彼のスマートフォンは誰も受けず、メッセージを送っても返信がなかったと、ＷＳＪは先月３１日付の記事で伝えた。ロシア情報当局が「ロシア軍産複合企業の情報を入手して米国に提供した」という容疑で彼を逮捕したからだ。

エカテリンブルクはウラル山脈の近隣にあり、軍産複合企業が多い。記者が取材するものが記者の国籍の政府に情報形態で伝えられると信じるのは、言論の自由が保障された現代の自由民主主義陣営では想像しがたい。しかしロシア政府はゲルシュコビチ氏を米国政府のためにスパイ活動をしたという容疑で拘禁した。


ＷＳＪは直ちにスパイ容疑を一切否認する立場を表し、その後も記事を通じてエバン・ゲルシュコビチがロシアでどんな活動をしたかを詳細に明らかにしながらスパイ容疑を否認する声を出した。記事の見出しは「エバン・ゲルシュコビチはロシアを愛し、ロシアは彼を攻撃した」だった。記事のメインの写真はゲルシュコビチ氏が同僚の特派員と共にモスクワ市内で自転車に乗っている姿で、明るい笑顔を見せている。ＷＳＪ以外の米国メディアも彼のための声を積極的に出している。ニューヨーカー（ｔｈｅ　Ｎｅｗ　Ｙｏｒｋｅｒ）は「友人がモスクワに拘禁されたという、想像もしがたいぞっとするニュース」という記名記事を載せた。

ニューヨーカーのジョシュア・ヤパ国際問題専門記者はこの記事で「エネルギーとアイデアがあふれ、明るく親切で料理まで得意なエバンが冷たい鉄格子の向こうにいると考えると苦しい」と書いた。ＮＹＴも「ＷＳＪ記者の解放のための米メディア連帯声明書」を掲載した。

ゲルシュコビチ氏の根はロシアだ。ＷＳＪによれば、彼の父は旧ソビエト連邦時代に移民を選択したユダヤ人だ。ゲルシュコビチ氏は米国で生まれて育ったが、ロシア語を習ってロシアを研究した。彼のホームページにも自らを「ロシアとウクライナおよび旧ソ連専門」と簡単に表記した。記事目録もすべてロシアだ。ロシアをよく知る彼が扱った記事目録を見ると、ロシアを批判したり、アレクセイ・ナワリヌイ氏のような反体制派に関連する内容が多い。

ニューヨーカーによると、彼は２０代には記者でなくシェフを目指していたという。ヤパ記者は「ニューヨークで暮らしながら複数のレストランでシェフの修練をしたエバンのおかげで、モスクワではおいしい食事を楽しめた」と伝えた。しかしケルシコバチ氏は結局、料理ではなく取材を選択した。

バイデン大統領までが彼の解放を促したが、ロシア政府とプーチン大統領が耳を傾ける可能性は低い。その代わりロシアがゲルシュコビチ氏を捕虜交換などのカードで利用する可能性などが予想される。昨年１２月にも米国に拘禁されたロシアの武器商ヴィクトル・ブート氏と、ロシアが拘禁した米企業のポール・フォルラン氏が交換釈放された。フォルラン氏は多くの努力にもかかわらずスパイ容疑で１６年刑を言い渡され、３年間服役して釈放された。