金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長
金与正は党副部長という職位にふさわしくないほど前面に登場する。兄の意中を外部に伝える「口」の役割もする。韓国・米国など対外政策を総括するというのが北朝鮮当局の説明だ。2018年9月に平壌(ピョンヤン)で開催された南北首脳会談に出席した人たちの間では「すべての道は金与正に通じる」という言葉が広まった。金与正が「私の考えでは」という表現を入れて発表する談話は、それまで北朝鮮の公式文書には見られなかった。金与正の役割と地位を表している部分だ。ところが最近、金正恩が娘を公開的な場に同行させる回数が増え、兄妹政治から家族政治に変化している。
労働新聞は昨年11月18日、長距離ミサイル発射現場を伝えながら、金委員長が娘の手を握ってミサイルの前を歩く写真を掲載した。その後は正装した娘を登場させ、先月25日の平壌西浦地区新市街地の着工式ではショベルを持つ場面まで送り出した。北朝鮮メディアは「尊貴な」「愛する」という修飾語を付けて「お子様」と呼ぶ。金敬姫が58年に北朝鮮を離れる中国人民支援軍(中国共産軍)歓送行事に花童として、また叔母の金与正が2011年の金正日の葬儀で喪服姿で住民に初めて近づいたのとは全く違う雰囲気だ。
北朝鮮が10歳ほどの「首領の娘」を前に出す理由はいくつか考えられる。確実なのは北朝鮮体制を率いる中心勢力が企画したという点だ。先月8日の閲兵式(軍事パレード)でこれを裏付けるような場面があった。金正恩が閲兵式に参加した部隊の旗を観閲して閲兵式場へ向かう過程で、母の李雪主(イ・ソルジュ)が左手で娘の背を押すような姿があった。事前に準備された脚本に合わせて「王女」を登場させていることがわかる。
国家情報院はこの子どもを金正日の第2子と推定している。2013年に元米プロバスケット選手デニス・ロッドマンが平壌を訪問した際、李雪主の出産の話を聞いたが、その当時の子どもがキム・ジュエと考えられる。北朝鮮のロイヤルファミリー情報は極秘で扱われる。このため国家情報院さえも把握するのが難しい。国家情報院は7日、「金委員長の第1子が息子という情報があり、確認を続けている」と報告したのが端的な例だ。10年が経過しても性別さえ「最終確認」できていないということだ。
こうした中、ミサイルの前に首領の娘を登場させた点は西側メディアの関心を引くのに十分だった。北朝鮮の住民に4代世襲を受け入れさせる効果を狙った企画と考えられる。39歳の金正恩委員長はすでに4代世襲を念頭に置いて10歳ほどの「首領の娘」に兄妹政治を任せようとしているのだろうか。
来週の韓米連合訓練を控え、北朝鮮は金与正の口から軍事的対応を予告した。継母の圧力と牽制を乗り越えて権力を握った金正日は青瓦台(チョンワデ、大統領府)奇襲と板門店(パンムンジョム)斧蛮行事件など好戦的な態度を見せた。その一方で子どもをスイスに送って西側の豊かさを教えた。キム・ジュエの最近の歩みが兄妹政治の開始なら、戦争の危機よりも金正恩がそうだったように海外の豊かさを先に経験させるのが順序だ。そうしてこそ住民の豊かさを企画できるのだから。
チョン・ヨンス/統一文化研究所長/論説委員
【コラム】兄妹政治を継いだ金正恩、今度は10歳の娘を出して家族政治(1)
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