「ＶＲ（仮想現実）で手術するのは、まるで人間の火星着陸のようだった」

英国ロンドンのグレート・オーモンド・ストリート病院神経外科のヌール・ウル・オワセ・ジーラニ医師は、ブラジルのリオデジャネイロで頭と脳を共有する３歳の結合双生児分離手術に成功した後、こう述べた。

◆ブラジルで頭がつながった「結合双生児」分離手術成功


約９３００キロメートル離れたロンドンとリオデジャネイロの医療陣が「仮想手術室」に集合し、協力し合って成し遂げた成果だと英国ＢＢＣ、ザ・タイムズなどが１日（現地時間）、報じた。ジーラニ氏は今年７月、リオデジャネイロのパウロ・ニーマイヤー国立脳研究所付属病院で該当病院神経外科のガブリエル・モファレジ医師と共に頭蓋骨と血管を共有する「頭蓋結合双生児（ｃｒａｎｉｏｐａｇｕｓ　ｔｗｉｎｓ）」のベルナルド・リマ君とアルトゥール・リマ君の双子の兄弟を分離した。双子は回復中だが、手術が追加で必要になる可能性もあると医療陣は説明した。

２０１８年、ブラジル北部のロライマ州で生まれたリマ兄弟は、頭がくっついた状態で生まれ、２０２０年からパウロ・ニーマイヤー国立脳研究所付属病院で過ごした。結合双生児は６万回の出産に１回の割合で生じるが、そのうち頭蓋結合は５％に過ぎない。毎年５０組ほど生まれるが、このうち３０日以上生存するのは１５組程度だという。

脳の重要な静脈を共有しているリマ兄弟の分離手術は不可能に見えた。もうすぐ満４歳の２人は分離手術をする結合双生児では年齢が比較的上だった。このような場合、手術後にも様々な合併症が生じる可能性がある。更に、分離手術の失敗で組織が損傷し、より難しい手術になると予想した。これを受け、ムファレジ医師率いるリオデジャネイロの医療陣は今年初め、結合双生児の手術に何度も成功しているロンドンのジーラニ氏に助けを求めた。

◆９３００キロの距離をつなぐ「仮想手術室」で数カ月間リハーサル

ジーラニ氏にとっても難しい手術だった。もし、従来の手術のように行い、血管、組織などに誤って触れれば、リマ兄弟にとっては致命的な結果を招く可能性があった。ジーラニ氏は悩んだ末、ＶＲを利用することにした。両病院の医療スタッフがＶＲヘッドセットを着用し、双子の脳をスキャンして作った頭蓋骨電子地図などを利用してＶＲ空間で数カ月間、手術のリハーサルを行った。ＶＲ手術室で失敗したら、他の方法を試みるやり方で手術を徹底的に準備した。ＶＲではロンドンとリオデジャネイロの遠距離（９３００キロメートル）が感じられなかった。

その結果、リマ兄弟は３３時間かかった最後の２回の手術を含め、計７回にわたる手術を受ける間、大きな危機もなく分離することができた。２都市で手術に参加した医療スタッフだけで１００人に及んだ。いずれもＶＲリハーサルが大きく役立った。他国の外科医が仮想手術室で合同で準備し、手術に成功したのは史上初めてのことだと外信が伝えた。

ジーラニ氏は「子供たちを実際の危険にさらす前に解剖構造を見て手術を準備し、外科医の不安感を解消してくれ、役に立った」と述べた。しかし、「ＶＲで手術するのはまるで人間が火星に着陸するように非常に難しい『超現代的な作業』だった」と吐露した。人間が火星に行ったことは今まで一度もない。ムファレジ氏は「最初は誰もこのような手術作業が可能だと信じなかったが、２人とも命が助かったのは歴史に残る成果」と述べた。

◆今年６億２８００万ドル規模、ＶＲ医療産業の急成長

ＶＲを利用した医療産業の規模が徐々に拡大している。今年５月、市場調査会社ポチョンビジネスインサイトによると、世界の医療産業でＶＲの規模は昨年は４億５９００万ドル（現レートで約６１３億円）、今年は６億２８００万ドル（約８３９億円）を記録した。２０２９年までに６２億８７００万ドル（約８４００億円）に達すると予測した。同社は「新型コロナウイルス感染症（新型肺炎）パンデミックのため、医療界でＶＲ関連市場が急成長している」と伝えた。医大生教育が主に非対面で行われ、臨床教育をＶＲ活用に代替したためだ。

またＶＲは精神健康治療に広く使われている。恐怖症、うつ病、外傷後ストレス障害などの場合、ＶＲで特定状況をシミュレーションする方式で自然に克服できるように導いている。外科診療では結合双生児分離手術のように難しい外科手術リハーサルでＶＲを使って成功率を高め、手術過程と予後をＶＲでリアルに見せ、患者と保護者の理解度を高めるのに使われているとＢＢＣが報じた。