世宗はこうした危機を意思疎通と愛民で克服した。御前会議で「まだ果敢な言葉で面前で諫争する者や衆論に反対して論じる者がいない」として直言を要求した。こうした緊張した姿勢が、３５年で滅びた後百済、平均３００年周期の中国王朝とは違い、朝鮮が５１８年続く原動力になった。世宗は「民は愚かに見えても実際には神明な存在」とし「空が見るものも民が見るものから始まり、神が聞くことも民が聞くところから始まる」と言った。

いま我々の前に流れる危機の川は苦痛なしに渡ることはできない。痛みは社会的弱者に集中するだろう。咸錫憲（ハム・ソクホン）先生は「涙ぐめばそのレンズを通して天の国が見える」とし、作家キム・フンは「涙が乾けば事物がゆがんで見える」と書いた。憐憫は他人と自分の境界を崩して危機に連帯させる。大統領は地上で最も苦しんでいる人を訪ねて、共に涙を流さなければいけない。金建希（キム・ゴンヒ）大統領夫人も光の跡さえない社会的弱者・少数者の悲しくみすぼらしい現場を訪れることを望む。相手と自分を共に救援する道だ。

野党には「射撃中止」を提案するのがよい。相手に向けた政争の銃口を自分が先に下ろさなければいけない。自分側の人たちを呼び集めて乾杯するのもよいが、反対者にも会って対話し、譲歩する必要がある。そうしてこそ協力を得ることができる。検察出身者中心の要職人事が国民の基準に合わなければ適切な水準に調整しなければいけない。「必要ならまたする」というのは「一度勝負してみよう」ということだ。


政治とは何か。権力を行使することだ。権力の本質は自分の意図通りに人を動かす暴力だ。それで政治家は許されがたい。ただ、国民が切実に望むことを把握して成功すれば別の道が開かれる。マックス・ウェーバーがいう責任倫理を果たすことであり、許される。権力の時間は就任式の空にかかった虹のように虚しく消滅する。尹大統領が国民に近づこうという意志は確実だ。成功するためには常に謙虚で温かい気持ちで国政に臨まなければいけない。

李夏慶（イ・ハギョン）／主筆／副社長


【コラム】尹大統領は地獄の門の前に立っている（１）