映画『空気殺人』は加湿器殺菌剤惨事を被害者遺族の視線で解釈した作品だ。俳優キム・サンギョン(右)が主役を演じ、昨年出版された作家ソ・ジェウォンの小説『菌』に基づき、チョ・ヨンソン監督が脚本と演出を手掛けた。[写真 TCOザ・コンテンツオン、CJ CGV]
1994年から17年間で1000万本ほど売れた加湿器殺菌剤に含まれた毒性物質は大勢の尊い命や健康を奪った。企業は有害性検査をまともに行っておらず、一部企業は有害性を知っていても黙認した。軽薄な商法が作り出した被害は想像を超えた。2020年社会的惨事特別調査委員は被害者だけ95万人、死亡者は2万人にのぼると推算した。
最近では11年ぶりに出された被害救済調停案まで事実上白紙化した。加湿器殺菌剤被害救済調停委員会は先月末に被害者遺族に2億~4億ウォン(約2053万~4106万円)を支払い、最重症被害者には年齢によって最大5億ウォンを支援する内容を盛り込んだ最終調停案を公開した。だが、調停に参加した9社のうちエギョン産業とオキシー・レキット・ベンキーザーなど2社が反対した。両社は最大9240億ウォンの調停額の60%以上を負担する。
調停案白紙化の責任を巡り、両社はもちろん政府と政界に対する批判も出ている。企業・被害者間協議という私的調停原則を理由を盾に隠れているという指摘だ。実際に調停委内外では「政府は細かい干渉はしながらも実際に積極的な役割を要求すれば手を引く」という不満が出ているという。政界も被害者の前では大騒ぎするだけで、調停案が不発になってからは対策準備を要求する声をあげたり動いたりする様子は見せていない。
今月8日の『空気殺人』試写会で主演俳優キム・サンギョンはこの映画に格別な意味を付与した。彼は「『空気殺人』のシナリオを受け取ったとき、これは天から与えられた役目だと考えた」と打ち明けた。政府は、そして政治家たちは、加湿器殺菌剤被害者の被害回復のための努力を十分にしたと自負することができるだろうか。それが彼らの役目だった。遠くから「円満な合意」だけを応援していたのなら、空気殺人を黙認したも同然だ。
チャン・ジュヨン/社会エディター
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