収監者虐待動画を告発したセルゲイ・サベリエフ(右)がロシアから逃げパリのシャルル・ドゴール空港に到着しグラグネットの設立者である人権運動家ウラジミール・オセチキンとユーチューブ配信をしている。[ユーチューブ キャプチャー]
◇顔だけ隠し裸で収監者殴打…拷問や性的虐待も
彼の告発で公開された映像にはこの刑務所内の医療施設で数人の男がベッドに縛られている男性を棒で叩く姿などが含まれている。収監者が拷問や性的虐待される様子も含まれていたという。その後議論が起きるとこの刑務所の責任者は辞職し、ロシア連邦矯正局は6日にこの刑務所の職員4人を解雇したと明らかにした。しかし顔を明らかにしたサベリエフはこの日のインタビューで「それだけでは十分でない」と指摘した。
サベリエフが虐待関連内容を知ったのは彼自身がこの刑務所に収監されてだった。彼は2013年に麻薬関連犯罪で懲役9年の宣告を受けた。彼はBBCに自身の犯罪に対して詳しく説明してはいないが「悲しくてよくあること」と主張した。収監者虐待で悪名高いロシアのサラトフ刑務所に収監された彼は、到着するとすぐに激しく殴られたと明らかにした。「彼らはだれが大将なのか教えようと新入り収監者を無条件で殴った」と話した。
彼は運が良い方に属していた。刑務所で事務業務を担当しパソコンを使えるようになったためだ。当時彼の業務のひとつは刑務官のボディカメラに録画された見回り映像をモニタリングすることだった。虐待映像を見ることになったのはその時からだった。刑務官は「特に訓練された」収監者にカメラを渡し他の収監者を拷問させたという。彼は「(そうして撮影された)一部の映像を削除するのも私の業務だった。(削除された映像は)別の所に転送された。おそらく高い段階に行ったようだ」と主張した。
映像を初めて見て大きな衝撃を受けた彼は、何をどのようにすべきかわからなかったとBBCに話した。映像を別にコピーしておくべきだとだけ考えたという。彼が2019年から別に保存した動画だけで1000件を超える。彼は「だれもが刑務所で殴打や性的虐待が行われているということを知ってはいたが、直接見るまではどんな想像もできなかった。最初のビデオ、2番目、そして5番目のビデオまで見てからコピーを始めることを決めた」と話した。
◇「6カ月間見守っていた」との脅迫受け逃げる
彼が動画を渡したロシアの収監者人権団体グラグネットを知ったのは今年初めだった。この団体の設立者であるウラジミール・オセチキンがロシアの刑務所内の人権問題を扱うユーチューブ映像を見ることになった。サベリエフは自身が収監中であるサラトフ刑務所も言及されるのを聞き、彼が集めた映像も確実な証拠になるだろうと考えた。2月に釈放された後、彼は数カ月かけてこの団体にファイルを送り始めた。
ロシア当局はしかし匿名の内部告発者がだれなのかをすでに把握していた。サベリエフは先月他の地域を訪問するためサンクトペテルブルク空港に立ち寄った際にチェックインカウンターで民間人の服を着た男たちと会った。彼らは「6カ月間あなたを見守っていた。反逆罪で20年間刑務所に入れる」と脅迫した。「近く全てを自白した上で刑務所で死んでいるのが見つかるだろう」という話もしたという。
彼らは虚偽の陳述を要求した。「『外国資本』であるグラグネットの指示を受けてロシア矯正当局を不信に思わせる証拠を収集した」と陳述すれば懲役4年に下げるという条件だった。サベリエフは調査に協力するという書類数枚に署名した後に解放された。彼は「私は生と死の岐路で生きることを選択した。彼らは私があえて逃げることはできないものと考えただろう」と話した。その後ロシアからミニバスに乗ってベラルーシに渡り、チュニジアを経てフランスまで行った彼はパリのシャルル・ドゴール空港のトランジットエリアで警察に助けを求めた。
ようやく姿を表わせるようになったサベリエフは、「(ロシア矯正当局は)一部責任者を解雇したり他の刑務所に送るだけでは十分でない」と指摘した。彼は「彼らがなぜそのようなことをしたのか説明することを願った」と強調した。
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