◆ファイザーワクチンの突破口になったＬＤＳ注射器

３つ目は、技術を互いに交換するバーター（ｂａｒｔｅｒ）式取引だ。最も難しいが最も高級な解決法となる。代表的な事例が最少残余型（ＬＤＳ）注射器だ。サムスンは米ファイザーがワクチン供給不足を緩和するためＬＤＳ注射器を求めているという情報を得た。それで国内のプンリムファーマテックを発掘し、全面的な技術支援で１カ月間で最新ＬＤＳ注射器を大量生産するのに成功した。サムスンはこの注射器をテコにファイザー製ワクチン導入の突破口を開いた。

サムスングループは最近、グループ内部の生産工程専門家らを仁川（インチョン）松島（ソンド）のサムスンバイオロジクス工場に投入したという。半導体・携帯電話分野で磨いた世界最高レベルの生産工程管理をモデルナのワクチン委託生産に適用するためだ。専門家らがワクチンの生産効率を画期的に高めたり、生産収率を改善する場合、モデルナ本社と米政府に向けて堂々とワクチン物量の国内優先供給を要求できる交渉力が生じる。李在鎔副会長も今週末ごろ生産工程の専門家と松島のサムスンバイオロジクス現場を訪れる計画という。


◆無菌充電など高難度技術が必要

モデルナのワクチン委託生産は単純な工程ではない。無菌充填・品質検査・ラベリング・包装など非常に高難度の技術が求められるという。サムスンは来月初めから毎週１０００万回分以上のモデルナ製ワクチンを委託生産する。したがって生産効率と収率を１０％ほど引き上げることができる場合、モデルナの従来のグローバル供給計画に影響を及ぼさず毎週１００万回分の物量を国内に優先配分できる余地が生じる。さらにモデルナのワクチンはマイナス２０－３０度の冷蔵供給チェーンが必要であるため、国内生産分を国内に優先配分するのがはるかに効率的だ。

一昨日、サムスンバイオロジクスの株価は１００万ウォンを突破し「皇帝株」になった。モデルナのｍＲＮＡワクチン委託生産という大型好材料に株式市場が反応したのだ。昨日は青瓦台の朴洙賢（パク・スヒョン）国民疎通首席秘書官がまたラジオ番組のインタビューで、サムスンバイオロジクスに言及しながら「この（モデルナワクチン）問題は委託生産物量の国内優先供給で当然協議していくだろう。見守ってほしい」と圧力を加えた。モデルナ製ワクチン需給は高次元の方程式だ。問題はサムスングループが短期間内にモデルナ本社と米政府を感動させる画期的な生産工程技術をどう確保するかにかかっている。期待されているように果たして李副会長はワクチン白騎士になれるのだろうか。サムスンバイオロジクスのワクチン物量を国内に先に供給することができれば、９カ月以上も続いてきたワクチン事態は決定的な変曲点を迎えることになる。李副会長とサムスンの動きに市場は注目している。

イ・チョルホ／中央日報コラムニスト


【コラム】李在鎔サムスン副会長はワクチン白騎士になれるのか（１）