退任7カ月を残してジョージ・W・ブッシュ米大統領はイラク戦の時にあまりにも好戦的な言葉を駆使したことを悔やんだ。「やれるものならかかってこい」 「(ビン・ラディンを)生かそうが殺そうが連れてこい」と言ったような乱暴な言葉が、自身を「戦争を渇望する人」に映るようにしたというのだ。「少し違った修辞を使っていたなら、国民の分裂や国際社会の誤解は減っていたかもしれない」と述べたが、時すでに遅し、だった。ブッシュ氏をインタビューした英国日刊紙タイムズは「タカがハト語を喋っている」と嫌味たっぷりのタイトルをつけた。
日本政府に対する慰安婦損害賠償訴訟却下判決で文在寅(ムン・ジェイン)大統領の頭の中は複雑になった。外交的負担は軽減することになったが、被害おばあさんや反日感情のことを考えると悩みが深くならざるを得ない。何より韓日問題をめぐって話してきた性急な言葉をどう収拾するか頭が痛いはずだ。文大統領の「反日メッセージ」程度は就任後ずっと「クレッシェンド」(徐々に強く)だった。2017年光復節(解放記念日)の時は「韓日関係の障害物は日本の歴史認識」と叱責し、翌年の三一節(独立運動記念日)の時には「反倫理的人権犯罪」という言葉が動員された。日本が半導体素材輸出規制カードを切ると「もう二度と日本に負けない」と言いながら激昂した。こうした「タカ語」は任期後半に「ハト語」に急旋回した。今年初めの新年会見では、慰安婦被害者に勝訴判決を下した1次判決に対して「困惑している」と吐露すると、三一節の時は「過去に足を引っ張られていてはいけない」と話した。
就任前から否定してきた朴槿恵(パク・クネ)-安倍政府の2015年慰安婦合意も、最近になり「国家間の公式合意」という立場に転じた。米中新冷戦の中で韓日問題を放置することが負担になったのだろう。一歩遅れたが現実に気づいたのは幸いだ。しかしその間に国際社会における韓国の信頼度はダメージを受けた。引火性の強い韓日問題を「少し違った修辞法」で管理していたなら、今のように困惑してはいなかったはずだ。
今回の慰安婦判決のメッセージははっきりしている。感情ではなく理性で、怒りではなく外交で解決しようということだ。判決には他の主権国家は裁判の対象になれないという「国家免除」論理が適用された。裁判所は「被害者に請求権があることは否定しないが、慣習法と大法院の判例に従わざるをえない」と明らかにした。感情は感情で、法は法だ。「われわれは善、お前たちは悪」という二分法は国内政治では受け入れられるかも知れないが、利害関係がぶつかる国際社会では通用しない。世界は自分を中心に回っているという「希望回路」は孤立を生むだけだ。日本の汚染水放出決定をめぐる米国と国際原子力機関(IAEA)の反応で見たではないか。
思っていたとおり、慰安婦判決をめぐり「土着倭寇」非難が騒がしい。新造語「土着倭寇」の威力は恐るべきだ。被植民支配の傷痕を心に刻む韓国社会のコンプレックスを絶妙に逆なでする。韓日問題を理性的・合理的に解決しようという声はこの一言で縮こまってしまう。韓国社会が反共コンプレックスから抜け出して「赤」レッテルの威力が衰えたこととは対照的だ。
「土着倭寇」レッテルが封印してしまった談論構造は、実際に被害当事者である慰安婦おばあさんたちを蚊帳の外に置いた。尹美香(ユン・ミヒャン)スキャンダルまではらむに至った。朴-安倍の慰安婦合意は明らかに限界がある。しかし、旧日本軍の関与および責任を認めるという意味で和解・癒やし財団に日本政府予算が使われたという事実は否定できない。合意後、日本が「賠償ではない」と言い張ることは非難されて当然だ。しかし、財団を解散してしまった後、手をこまぬいてきた韓国政府も責任を回避できない。慰安婦おばあさんたちはもう15人しか残っていない。
大法院(最高裁)からどのような結論が出るかは分からないが、今回の判決が建設的な韓日関係への解決方法を探る契機になるよう期待する。日暮途遠、かなり手遅れになったのではないか心配だ。下山道に自分たちの保身を考えるのにも忙しい政府なのに。だが、知恵を象徴するミネルバのフクロウは黄昏になってこそ翼を広げると言うではないか。文大統領も最悪の韓日関係にした張本人という評価を残したくはないだろう。
イ・ヒョンサン/中央日報コラムニスト
日本政府に対する慰安婦損害賠償訴訟却下判決で文在寅(ムン・ジェイン)大統領の頭の中は複雑になった。外交的負担は軽減することになったが、被害おばあさんや反日感情のことを考えると悩みが深くならざるを得ない。何より韓日問題をめぐって話してきた性急な言葉をどう収拾するか頭が痛いはずだ。文大統領の「反日メッセージ」程度は就任後ずっと「クレッシェンド」(徐々に強く)だった。2017年光復節(解放記念日)の時は「韓日関係の障害物は日本の歴史認識」と叱責し、翌年の三一節(独立運動記念日)の時には「反倫理的人権犯罪」という言葉が動員された。日本が半導体素材輸出規制カードを切ると「もう二度と日本に負けない」と言いながら激昂した。こうした「タカ語」は任期後半に「ハト語」に急旋回した。今年初めの新年会見では、慰安婦被害者に勝訴判決を下した1次判決に対して「困惑している」と吐露すると、三一節の時は「過去に足を引っ張られていてはいけない」と話した。
就任前から否定してきた朴槿恵(パク・クネ)-安倍政府の2015年慰安婦合意も、最近になり「国家間の公式合意」という立場に転じた。米中新冷戦の中で韓日問題を放置することが負担になったのだろう。一歩遅れたが現実に気づいたのは幸いだ。しかしその間に国際社会における韓国の信頼度はダメージを受けた。引火性の強い韓日問題を「少し違った修辞法」で管理していたなら、今のように困惑してはいなかったはずだ。
今回の慰安婦判決のメッセージははっきりしている。感情ではなく理性で、怒りではなく外交で解決しようということだ。判決には他の主権国家は裁判の対象になれないという「国家免除」論理が適用された。裁判所は「被害者に請求権があることは否定しないが、慣習法と大法院の判例に従わざるをえない」と明らかにした。感情は感情で、法は法だ。「われわれは善、お前たちは悪」という二分法は国内政治では受け入れられるかも知れないが、利害関係がぶつかる国際社会では通用しない。世界は自分を中心に回っているという「希望回路」は孤立を生むだけだ。日本の汚染水放出決定をめぐる米国と国際原子力機関(IAEA)の反応で見たではないか。
思っていたとおり、慰安婦判決をめぐり「土着倭寇」非難が騒がしい。新造語「土着倭寇」の威力は恐るべきだ。被植民支配の傷痕を心に刻む韓国社会のコンプレックスを絶妙に逆なでする。韓日問題を理性的・合理的に解決しようという声はこの一言で縮こまってしまう。韓国社会が反共コンプレックスから抜け出して「赤」レッテルの威力が衰えたこととは対照的だ。
「土着倭寇」レッテルが封印してしまった談論構造は、実際に被害当事者である慰安婦おばあさんたちを蚊帳の外に置いた。尹美香(ユン・ミヒャン)スキャンダルまではらむに至った。朴-安倍の慰安婦合意は明らかに限界がある。しかし、旧日本軍の関与および責任を認めるという意味で和解・癒やし財団に日本政府予算が使われたという事実は否定できない。合意後、日本が「賠償ではない」と言い張ることは非難されて当然だ。しかし、財団を解散してしまった後、手をこまぬいてきた韓国政府も責任を回避できない。慰安婦おばあさんたちはもう15人しか残っていない。
大法院(最高裁)からどのような結論が出るかは分からないが、今回の判決が建設的な韓日関係への解決方法を探る契機になるよう期待する。日暮途遠、かなり手遅れになったのではないか心配だ。下山道に自分たちの保身を考えるのにも忙しい政府なのに。だが、知恵を象徴するミネルバのフクロウは黄昏になってこそ翼を広げると言うではないか。文大統領も最悪の韓日関係にした張本人という評価を残したくはないだろう。
イ・ヒョンサン/中央日報コラムニスト
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