バイデンと李洛淵
韓国政治の代表的な酷使キャラクターは首相だ。「一人之下、万人之上」という華麗な修飾語で登場するが、酷使には勝てない。首相残酷史の原因は大きく2つある。一つは大統領の盾という慣行のためだ。青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)は国政の懸案のうち大統領支持率にマイナスの影響を及ぼす余地があったりプラスにならないものは首相に任せる。青瓦台の会議で頭を悩ませるものは「首相室主管下で処理」決定が下される。いま新型コロナ対応の指令塔が首相室であるのが最近の事例だ。
もう一つは執権の後半期に必ず墜落する韓国大統領の支持度だ。大統領の人気が最低だが、ましてその政権のナンバー2の首相だ。李明博(イ・ミョンバク)政権初期に親李・親朴系の葛藤を解消するため青瓦台が提案した首相職を朴槿恵(パク・クネ)前大統領がためらわず断った理由の一つだ。
成功の歴史もない。1987年の民主化宣言以降、首相の中では李会昌(イ・フェチャン)、李洪九(イ・ホング)、李寿成(イ・スソン)、高建(コ・ゴン、以上、金泳三政権)、金鍾泌(キム・ジョンピル)、朴泰俊(パク・テジュン)、李漢東(イ・ハンドン、以上、金大中政権)、李海チャン(イ・ヘチャン)、韓明淑(ハン・ミョンスク、以上、盧武鉉政権)、鄭雲燦(チョン・ウンチャン、李明博政権)、黄教安(ファン・ギョアン、朴槿恵政権)らが大統領選挙に挑戦した。実際に出馬したのは李会昌、金鍾泌、黄教安の3人だが、すべて落選した。朴正熙(パク・ジョンヒ)元大統領の死去で権限代行を引き受けた後、次の大統領選挙で大統領に選出された崔圭夏(チェ・ギュハ)がいるが、彼は直接選挙制でなく間接選挙制の大統領だった。
「温かい小便のバケツにも値しない」(フランクリン・ルーズベルト大統領当時の第32代副大統領ジョン・ナンス・ガーナー)と不満を言うほど、かつて米国でも副大統領は注目されなかった。しかし少なくとも過去50年間では事情が変わっている。
米国の副大統領は大統領と共に選挙で有権者の選択を受ける。さらに超強大国・米国の大統領の業務は一人では対応できないほどになり、大統領の不十分な分野を副大統領がバックアップしながら国政遂行能力が認められる。こうした理由で元副大統領は自然な流れで次期大統領候補1、2位となる。
過去50年間、リチャード・ニクソン、リンドン・B・ジョンソン、ジェラルド・フォード、ジョージ・H・W・ブッシュらは副大統領を経て大統領になった。先月就任したジョー・バイデン大統領もオバマ政権で8年間、副大統領を務めた。まさに副大統領全盛時代だ。
バイデン大統領の気力を受けたのだろうか。現在の文在寅(ムン・ジェイン)政権の2人の元・現首相がまたマウンドに上がろうとしている。大統領選挙を1年後に控えた状況で、李洛淵(イ・ナギョン)共に民主党代表は4月の地方選挙補欠選を迎える。丁世均(チョン・セギュン)首相は最前線で新型コロナウイルスと戦っている。乾坤一擲の勝負どころだ。
しかし状況は無死満塁、強打者が相手だ。補欠選は共に民主党出身の朴元淳(パク・ウォンスン)前ソウル市長、呉巨敦(オ・ゴドン)前釜山市長のセクハラ波紋の中で行われる「面目ない」選挙だ。1月の就業者数が98万2000人減少し、通貨危機以来の最大「雇用ショック」を迎え、廃業する自営業者の恨みの声が高まっている。「ゲームチェンジャー」コロナワクチン接種が主要国より遅れ、コロナ戦線からは残念な便りが入ってくる。
さらに尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長の変数は李代表に強烈なパンチを放った。民主党熱烈支持層は李代表では潜在的な野党圏候補である尹錫悦検察総長を退けて政権再創出するのが難しいと判断したようだ。最近の各種世論調査で京畿道(キョンギド)の李在明(イ・ジェミョン)知事が支持率1位になった背景だ。一時は40%まで上がった李代表の支持率は10%前後に落ちた。その場を丁首相は虎視耽々と狙っているが、肩を酷使するのは同じだ。
先日のドキュメンタリー番組で、82年優勝当時のOBベアーズの金永徳(キム・ヨンドク)監督と朴哲淳が会った。金監督は「当時エースが毎日投げた。それで哲淳は選手生活を早く終えることになった」とし、自分が罪人だと言いながら涙を流した。朴哲淳は「優勝しか見えず、とにかく投げたかった」とし、むしろ体の管理を誤った自分のせいだと師匠を慰めた。
李代表はマッコリ愛好家だ。いつか文在寅(ムン・ジェイン)大統領と李代表が会って「私が罪人だ」「そうではない。私のせいだ」と酒杯を交わす日がくるのだろうか。それとも起死回生の新しい歴史を築くのだろうか。4月の補欠選が語ってくれる。
チャ・セヒョン/国際外交安保エディター
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