トランプ前大統領に対する米国上院の弾劾審判が９日（現地時間）に始まる。米国史上、大統領が退任後に弾劾審判を受ける最初の事例だ。

前例がないだけに、退任した前職大統領が弾劾審判の対象になるかどうかをめぐり激しい論戦が予想される。審判を翌日に控えた８日、トランプ前大統領の弁護団と下院弾劾訴追委員はそれぞれ上院に提出した書面資料を通じて攻防戦を始めた。


トランプ前大統領の弁護団は７５枚の弁論書で、退任した前職大統領に対する弾劾審判は違憲であるため弾劾訴追案は直ちに棄却されるべきだと主張した。大統領弾劾訴追制度は在任中に過ちを犯した大統領を職務から排除するためのものだが、トランプ前大統領はすでに退いたため審判の対象にならないという論理だ。


また、たとえ弾劾審判対象になるとしても、トランプ前大統領が１月６日に支持者の前でした演説は修正憲法１条に基づく表現の自由に該当すると主張した。当日のトランプ前大統領の発言は、政治的修辞にすぎず内乱扇動ではなかったということだ。共和党では、トランプ前大統領に罪を問うのなら、弾劾審判ではなく刑法違反をめぐり裁判を開くべきだという主張も出ている。

一方、弾劾審判で検事の役割をする下院弾劾訴追委員は、トランプ前大統領の先月６日の発言は憲法を守護する義務がある在任期間中のことであり、審判対象だと反論した。また、トランプ前大統領は職から退いたが、二度と高位公職に就けないよう有罪宣告をする権限が上院にあると主張した。トランプ大統領の言動も単純な政治的な意見表明でなく、政府と議会に対抗すべきだとして暴力を扇動したため、表現の自由の保護対象でないと主張した。退任したという理由で罪を問わない場合、嘘の主張で大衆を扇動することに成功すれば大統領に当選し、失敗すればいかなる罰も受けなくてもよいという危険な先例を残すというのが、民主党の論理だ。

トランプ前大統領は議会がバイデン氏の勝利を公式確定する上下院合同会議を開催した先月６日、支持者に議会に行って承認を阻止すべきだという趣旨で演説した。当時、トランプ前大統領は「我々は議会に行く」とし「死に物狂いで戦わなければ国を失ってしまう」と述べた。

トランプ前大統領は暴力占拠をあおった容疑で、事件から１週間後の先月１３日、下院で弾劾訴追された。下院民主党議員２２２人全員が賛成し、共和党議員１０人を合わせて賛成２３２票、反対１９７票で弾劾案が通過した。これに先立ち弾劾案が上院に送付された先月２６日、ランド・ポール議員が「退任した大統領に対する弾劾審判は違憲」と問題を提起し、表決が進行されたが、合憲５５人・違憲４５人で否決された。ミット・ロムニー氏、スーザン・コリンズ氏ら共和党議員５人が反乱票を投じた。

しかし上院で有罪評決が出る可能性は高くない。上院議員３分の２（６７人）以上の賛成を得るためには民主党議員全員（５０人）に共和党議員１７人が加わる必要があるが、共和党の離脱票はこれに達しないという予想だ。トランプ前大統領は昨年１月にも「ウクライナスキャンダル」のため上院で弾劾審判を受けたが、多数党だった共和党上院議員の圧倒的反対で無罪評決を受けている。