日本映画史上で最高収益を記録した作品は２００１年に公開されたジブリアニメーション『千と千尋の神隠し』だった。この作品の日本国内収益は３０８億円で、２位の１９９７年作『タイタニック』（２６２億円）を大きく上回る。その後２０年間、この記録は破られず、映画産業の不況から「今後も記録の更新は難しい」という見方が多かった。

しかし新型コロナの影響で世界の映画館ががら空きとなっている２０２０年、日本では歴代記録を塗り替える大ヒット作が登場した。吾峠呼世晴の漫画を原作にした劇場版アニメーション映画『鬼滅の刃』無限列車編がその主人公だ。

日本メディアによると、１０月１６日に公開されたこの作品は７週目の１１月２９日、興行収入２７５億円を突破し、「タイタニック」の記録を超えた。日本映画界はこの作品が１２月末ごろ『千と千尋の神隠し』の記録を抜いて歴代興行ランキング１位になると予想している。


◆１億２０００万部売れた漫画が原作

原作は２０１６年２月から今年５月まで集英社の『週刊少年ジャンプ』に連載された漫画『鬼滅の刃』。単行本で２２巻まで出版され、すでに１億２０００万部以上売れている。

大正時代を背景に鬼に家族を殺された主人公の少年・竈門炭治郎が、生き残った妹を守るために「鬼殺隊」に入り、鬼を追う勇士に成長する過程を描いている。昨年テレビアニメに製作され、劇場版は全体のストーリーのうち無限列車で主人公が鬼と戦う内容を扱っている。

この作品は映画だけでなく、今年１年間、日本の文化界に広がった。４日の時事通信によると、出版市場の不況で３年連続下降していた日本オフライン書店の売上高は今年、新型コロナの流行にもかかわらず『鬼滅の刃』のおかげ上昇に転じると予想される。

◆「一つのヒット作品が文化界を支える」

『鬼滅の刃』劇場版が公開された１０月の１カ月間、日本国内の漫画販売も前年同月比で５０％増えた。

日本出版販売（日販）が１日発表した日本年間ベストセラーランキング（昨年１１月２４日から今年１１月２３日まで集計）で、全分野総合１位が『鬼滅の刃』の小説版『鬼滅の刃　しあわせの花』だった。２位と４位にも同じく小説版シリーズの『鬼滅の刃　片羽の蝶』と『鬼滅の刃　風の道しるべ」が入った。

４日朝、東京の各書店の前には営業開始前からマスクを着用した市民が列をつくった。この日に発売される漫画『鬼滅の刃』完結編の２３巻を買いに来た人たちだ。２３巻の初版発行部数は３９５万部。

集英社はこの日、『鬼滅の刃』完結編の出版を記念し、日本５大日刊紙（読売・朝日・毎日・産経・日本経済）に各紙３面ずつの全面広告を掲載した。

作品に登場する１５人のキャラクターの広告を５紙に分けて載せたもので、すべてのキャラクターを集めようとするファンが早朝からコンビニエンスストアで新聞を購入する姿も見られたと、日本メディアは伝えた。

ある大手出版社の幹部は「メガヒット作が出れば、その本を買いに書店に行った人が別の本も購入し、業界全体に売上上昇効果が発生する。また、一つのコンテンツが映像・ゲーム・キャラクターなど別のジャンルに広がり、文化界全体を支える」と説明した。

◆主人公が菅首相に似ている？

『鬼滅の刃』が日本文化界に活力を与えた理由は何か。日本メディアはまず「コロナ特需」を挙げる。

新型コロナ流行で世界の大作映画が一斉に公開を延期または中止した中、『鬼滅の刃』は日本全国映画館数の８０％に相当する４０３館で上映中だ。あるマルチプレックスでは複数のスクリーンで一日に４０回以上上映されることもあるという。

もう一つの理由は、この作品が主な観客層である青少年のほか、成人の観客まで引き込んだ点だ。「すべてを失った少年が多くの苦難に立ち向かって成長する」という普遍的なストーリーが幅広い世代の共感を呼んだという評価だ。

映画が公開される直前の９月、菅義偉首相が就任し、『鬼滅の刃』と菅首相を結びつける解釈も登場した。１０月２６日の毎日新聞の「鬼滅ブームと菅伝説」と題したコラムで、記者は「鬼殺しに挑む主人公の立志奮戦記から、菅義偉首相の出世譚を連想せずにはいられなかった」と書いた。菅首相は、親の選挙区を受け継ぐ政治家が多い日本の政界で、学閥や世襲なく底辺からスタートして首相に登りつめた。このコラムは「『鬼滅の刃』の大ヒットも、たたきあげ首相の誕生も、不安の時代に指針を求める人々の欲求の反映かもしれない」と分析した。

漫画『鬼滅の刃』は韓国でも２１巻まで翻訳されて出版されている。初期には主人公の耳飾りのデザインが旭日旗を連想させるという指摘が出て論議を呼んだりした。その後、形と色が修正され、特に海外版アニメーションやグッズでは新しいデザインに変更された。

劇場版アニメ『鬼滅の刃』も１２月１０日に韓国で公開される予定だったが、新型コロナの感染拡大で無期限延期となった。