◆統一部と国家情報院、歩調に乱れ
このように尋常でない北朝鮮内部の状況変化に韓国政府当局がどれほど機敏に動いて方策を準備しているかは疑問だ。触手の役割をすべき国家情報機関は「委任統治」カードを取り出して批判を受けた。「政治九段」と呼ばれた朴智元(パク・ジウォン)国家情報院長は国会情報委で報告する席で、金正恩委員長が妹の金与正(キム・ヨジョン)労働党組織指導部第1副部長に権限の一部を委任した状況だと明らかにした。北朝鮮国営メディアが金与正第1副部長の最近の談話や立場発表などに「委任により」という表現を使った点に過度に注目し、「委任統治」という言葉が招く波紋を深く考慮しなかった。情報委員の口を通じて金正恩委員長の権力異常兆候や健康・後継問題にまで拡大すると収拾に動いたが、覆水盆に返らずだった。
金正恩委員長と北朝鮮指導部の立場で見ると、自分たちの権力構図に触れる刺激的な発言が文在寅(ムン・ジェイン)政権の国家情報院から出たという点に不快感を抱くだろう。北朝鮮は反応を見せなかったが、今後の南北関係に否定的な影響を及ぼすことも考えられる。国民が関心を見せる北朝鮮内のコロナ状況や金正恩委員長の健康問題などについては国家情報院は口を閉じている。
対北朝鮮主務部処を自負してきた統一部は、南北関係の現実と青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)の注文の間で立ち位置を見いだせない雰囲気だ。先月末に就任した李仁栄(イ・インヨン)長官が物々交換形態の貿易で南北間の突破口を開くと明らかにすると、統一部は直ちに韓国の砂糖と北朝鮮の酒を交換をする事業が実現するだろうという立場を明らかにした。民間団体の南北経総統一農事協同組合が北朝鮮開城(ケソン)の高麗人参貿易会社を相手に1億5000万ウォン(約1340万円)相当の北朝鮮の酒35種類を砂糖167トンと物々交換するプロジェクトだ。メディアにもこうした事実が公開され、期待値を高めた。
問題は以外なところで出てきた。北側事業者が国連の対北朝鮮制裁対象である労働党39号室の傘下機関という点が国家情報院によって確認されたからだ。事業承認部処が制裁に抵触する点も確認しなかったうえ、国家情報院との歩調も合わず、李長官はスタートから信じがたい姿を見せた。
こうした中、一部の政府寄り専門家グループの態度も疑問を抱かせる。この専門家グループは赤信号がついて久しい北朝鮮経済について「相当な耐久力がある」という分析を出している。金正恩時代に入って平壌に建設された高層ビルやニュータウン形態の街、華麗なネオンで装飾された平壌の夜景がその根拠として提示される。北朝鮮の核・ミサイル挑発への対応策として国際社会が出した対北朝鮮制裁には「無用論」を主張する。中国という裏口があるため制裁の効果は少ないということだ。北朝鮮の市場経済が作動するため制裁ではびくともしないという論理まで出した。匿名を求めた国策機関の博士は「北が経済の失敗を自認する数日前にも、北の自力更生経済を擁護するような資料集を出した中堅研究者グループもあった」と伝えた。
◆執権10年を迎える来年1月の党大会
金正恩委員長は2012年4月の最初の公開演説で「二度と人民が飢餓に苦しむようなことをなくし、社会主義の富貴栄華を享受できるようにする」と約束した。しかし守られなかった。核・ミサイル挑発で綴られた金委員長の執権序盤の好戦的行動は北朝鮮制裁を自ら招いた。その一方で2016年5月に開催した労働党第7回大会では「経済」という言葉を142回も使うなど市民の生活を考える姿を浮き彫りにした。ところが結局、4年3カ月後に「人民の生活を向上させることができなかった」と認めて頭を下げた。
北朝鮮が労働党第8回大会の開催時期として提示した2021年1月は金正恩委員長執権10周年に入る時だ。エリート幹部と住民に新しいビジョンとメッセージを伝えなければいけない状況だ。10月の党創建75周年に惨めな成績表を出すよりも、時間を稼いで来年を約束するという意味もある。11月の米大統領選挙の結果を見守るという布石もあるかもしれない。しかしわずか5カ月間で北朝鮮の環境が変わるとは考えにくい。制裁と新型コロナの影響が北朝鮮経済をさらに揺るがす可能性もある。その場合、金正恩委員長と北朝鮮の指導部は、対南・対米問題や経済分野で良い機会が過ぎ去ったことに気づいて後悔するかもしれない。
イ・ヨンジョン/統一北朝鮮専門記者/統一文化研究所長
【コラム】あの年の夏のように…崖っぷちの北朝鮮「主体経済」(1)
このように尋常でない北朝鮮内部の状況変化に韓国政府当局がどれほど機敏に動いて方策を準備しているかは疑問だ。触手の役割をすべき国家情報機関は「委任統治」カードを取り出して批判を受けた。「政治九段」と呼ばれた朴智元(パク・ジウォン)国家情報院長は国会情報委で報告する席で、金正恩委員長が妹の金与正(キム・ヨジョン)労働党組織指導部第1副部長に権限の一部を委任した状況だと明らかにした。北朝鮮国営メディアが金与正第1副部長の最近の談話や立場発表などに「委任により」という表現を使った点に過度に注目し、「委任統治」という言葉が招く波紋を深く考慮しなかった。情報委員の口を通じて金正恩委員長の権力異常兆候や健康・後継問題にまで拡大すると収拾に動いたが、覆水盆に返らずだった。
金正恩委員長と北朝鮮指導部の立場で見ると、自分たちの権力構図に触れる刺激的な発言が文在寅(ムン・ジェイン)政権の国家情報院から出たという点に不快感を抱くだろう。北朝鮮は反応を見せなかったが、今後の南北関係に否定的な影響を及ぼすことも考えられる。国民が関心を見せる北朝鮮内のコロナ状況や金正恩委員長の健康問題などについては国家情報院は口を閉じている。
対北朝鮮主務部処を自負してきた統一部は、南北関係の現実と青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)の注文の間で立ち位置を見いだせない雰囲気だ。先月末に就任した李仁栄(イ・インヨン)長官が物々交換形態の貿易で南北間の突破口を開くと明らかにすると、統一部は直ちに韓国の砂糖と北朝鮮の酒を交換をする事業が実現するだろうという立場を明らかにした。民間団体の南北経総統一農事協同組合が北朝鮮開城(ケソン)の高麗人参貿易会社を相手に1億5000万ウォン(約1340万円)相当の北朝鮮の酒35種類を砂糖167トンと物々交換するプロジェクトだ。メディアにもこうした事実が公開され、期待値を高めた。
問題は以外なところで出てきた。北側事業者が国連の対北朝鮮制裁対象である労働党39号室の傘下機関という点が国家情報院によって確認されたからだ。事業承認部処が制裁に抵触する点も確認しなかったうえ、国家情報院との歩調も合わず、李長官はスタートから信じがたい姿を見せた。
こうした中、一部の政府寄り専門家グループの態度も疑問を抱かせる。この専門家グループは赤信号がついて久しい北朝鮮経済について「相当な耐久力がある」という分析を出している。金正恩時代に入って平壌に建設された高層ビルやニュータウン形態の街、華麗なネオンで装飾された平壌の夜景がその根拠として提示される。北朝鮮の核・ミサイル挑発への対応策として国際社会が出した対北朝鮮制裁には「無用論」を主張する。中国という裏口があるため制裁の効果は少ないということだ。北朝鮮の市場経済が作動するため制裁ではびくともしないという論理まで出した。匿名を求めた国策機関の博士は「北が経済の失敗を自認する数日前にも、北の自力更生経済を擁護するような資料集を出した中堅研究者グループもあった」と伝えた。
◆執権10年を迎える来年1月の党大会
金正恩委員長は2012年4月の最初の公開演説で「二度と人民が飢餓に苦しむようなことをなくし、社会主義の富貴栄華を享受できるようにする」と約束した。しかし守られなかった。核・ミサイル挑発で綴られた金委員長の執権序盤の好戦的行動は北朝鮮制裁を自ら招いた。その一方で2016年5月に開催した労働党第7回大会では「経済」という言葉を142回も使うなど市民の生活を考える姿を浮き彫りにした。ところが結局、4年3カ月後に「人民の生活を向上させることができなかった」と認めて頭を下げた。
北朝鮮が労働党第8回大会の開催時期として提示した2021年1月は金正恩委員長執権10周年に入る時だ。エリート幹部と住民に新しいビジョンとメッセージを伝えなければいけない状況だ。10月の党創建75周年に惨めな成績表を出すよりも、時間を稼いで来年を約束するという意味もある。11月の米大統領選挙の結果を見守るという布石もあるかもしれない。しかしわずか5カ月間で北朝鮮の環境が変わるとは考えにくい。制裁と新型コロナの影響が北朝鮮経済をさらに揺るがす可能性もある。その場合、金正恩委員長と北朝鮮の指導部は、対南・対米問題や経済分野で良い機会が過ぎ去ったことに気づいて後悔するかもしれない。
イ・ヨンジョン/統一北朝鮮専門記者/統一文化研究所長
【コラム】あの年の夏のように…崖っぷちの北朝鮮「主体経済」(1)
この記事を読んで…