◆米朝実務者会談も進展は難しく
米国の国内政治は北朝鮮核問題のような対外交渉に決定的な影響を及ぼす。逆に韓国も同盟国の生存問題である点を強調して米国の国内政治に影響を与えることができる。ハノイの場合、韓国政府がそのような影響力を積極的に行使していればどうなっていただろうか。米国は北朝鮮の核物質移転の可能性のため高濃縮能力を最も懸念する。一定期限内の濃縮施設の完全廃棄と米朝関係正常化を交換する2段階の行動を結びつけて妥結することもできただろう。核兵器は次の第3段階で廃棄するということだ。もし北朝鮮が義務履行で後退する場合、韓米が強圧的な手段を動員するという共同の行動計画が必須だ。
ところが今月初めのストックホルムの米朝実務者交渉もお互い従来の姿勢の枠を維持したまま決裂した。米国は北朝鮮の核・長距離ミサイル試験中断と制裁維持を両手に握ったまま段階的取引を望む。ところが北朝鮮は制裁下で交渉を続けるのが難しい。現在、金正恩委員長はトランプ大統領の「美しい手紙」に縛られて、どうすることもできない一種のリンボ(limbo)状態にある。米朝対話を望む中国に対する名分蓄積用としても年末までは交渉を続けるだろうが、2回目の実務者協議が開かれてもいくつかの事情から実質的な進展は難しい。
1つ目、米朝間交渉の構図が基本的にずれている。北朝鮮は核保有以降、「体制の安全」を特に強調している。3つの分野の安全に関する条件をいう。最も緊急な経済分野は、制裁解除はもちろん、その間の制裁によって後れた経済を復興させる措置を取るべきということだ。軍事的には金正恩委員長が今年の「新年の辞」で主張したように、韓半島(朝鮮半島)内外で北朝鮮を狙った米国の戦略資産の配備を禁止するというものだ。米軍を韓国に駐留できなくする条件だ。政治的には、北朝鮮の体制や人権のような問題に対して干渉せず外交関係を樹立することだ。
しかしトランプ大統領はこうした長期的な課題に関心がない。さらに北朝鮮は「完全で不可逆的な敵対視政策の撤回」という服に着替え、安全保障の程度を「タンタロスの池」のように上げたり下げたりする。米国が受け入れるのはさらに難しくなる。
2つ目、激化する米中の戦略的対立が北朝鮮の行動空間を広めている。北朝鮮がすぐに必要な制裁解除のために柔軟な取引に動くと期待することもできる。しかし北朝鮮はすでに相当な安全網を敷いている。今年6月、習近平主席は平壌(ピョンヤン)で「中国は北朝鮮の合理的『安保懸念』と『発展』に対する関心事を解決できるよう力が及ぶかぎり助ける」と述べた。中国が米国に対して北朝鮮の「合理的安保関心事」を受け入れるべきだと要求したのは新しいことではない。敵対政策の放棄、関係正常化、韓国に対する核の傘除去を骨子とするものだ。ところが、ここに「発展」に対する関心事を追加した。米国が対北朝鮮制裁を継続すれば、中国としては北朝鮮を後見するしかないという意味が込められている。
◆感性的な判断では安全保障できず
3つ目、米国国内の政治環境からみてトランプ大統領が「有能な交渉」をするのが難しくなっている。北朝鮮はトランプ大統領が直面した弾劾政局を利用した制裁解除を期待することも考えられる。しかしトランプ大統領はすでにウクライナ事件のように国内政治目的で対外関係を悪用するという非難を受けている。北朝鮮が望む取引は米国政治市場で逆風を浴びる可能性が高い。
いまトランプ大統領の大統領選挙時計と金正恩委員長の年末に進む時計が向き合って音を立てている。トランプ大統領は北朝鮮の核・長距離ミサイル試験の中止という従来の得点を維持するのが難しいと判断すれば、いつでも違う道を選択するだろう。一方、金正恩委員長は未来が不確かなトランプ大統領に政権の生存をかけた譲歩を先にしないはずだ。数日前には、これ以上はリンボにとどまらず、対米・対南攻勢の程度を高めるという信号として「人民の怒り」を動員した。
我々はどこへ進むべきなのか。まず、今からでも韓国が仲裁者でなく自らカードを握る果敢なプレーヤーへと姿勢を転換しなければいけない。これに合わせて韓半島の非常状況を想定した軍事態勢を固めなければいけない。戦争は終わったという感性的な判断では国の安全を保障できない。最後に我々の核政策を見直す必要がある。2006年に6カ国協議が膠着して道がふさがると、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は「我々も自らの核燃料サイクルを備えるしかない」として検討を指示した。盧大統領の言葉が耳に残っている。このすべての対応は国論団結と韓米間の信頼から始まる。
宋旻淳(ソン・ミンスン)元外交部長官
【コラム】韓国は北核仲裁者でない…果敢なプレーヤーになるべき(1)
米国の国内政治は北朝鮮核問題のような対外交渉に決定的な影響を及ぼす。逆に韓国も同盟国の生存問題である点を強調して米国の国内政治に影響を与えることができる。ハノイの場合、韓国政府がそのような影響力を積極的に行使していればどうなっていただろうか。米国は北朝鮮の核物質移転の可能性のため高濃縮能力を最も懸念する。一定期限内の濃縮施設の完全廃棄と米朝関係正常化を交換する2段階の行動を結びつけて妥結することもできただろう。核兵器は次の第3段階で廃棄するということだ。もし北朝鮮が義務履行で後退する場合、韓米が強圧的な手段を動員するという共同の行動計画が必須だ。
ところが今月初めのストックホルムの米朝実務者交渉もお互い従来の姿勢の枠を維持したまま決裂した。米国は北朝鮮の核・長距離ミサイル試験中断と制裁維持を両手に握ったまま段階的取引を望む。ところが北朝鮮は制裁下で交渉を続けるのが難しい。現在、金正恩委員長はトランプ大統領の「美しい手紙」に縛られて、どうすることもできない一種のリンボ(limbo)状態にある。米朝対話を望む中国に対する名分蓄積用としても年末までは交渉を続けるだろうが、2回目の実務者協議が開かれてもいくつかの事情から実質的な進展は難しい。
1つ目、米朝間交渉の構図が基本的にずれている。北朝鮮は核保有以降、「体制の安全」を特に強調している。3つの分野の安全に関する条件をいう。最も緊急な経済分野は、制裁解除はもちろん、その間の制裁によって後れた経済を復興させる措置を取るべきということだ。軍事的には金正恩委員長が今年の「新年の辞」で主張したように、韓半島(朝鮮半島)内外で北朝鮮を狙った米国の戦略資産の配備を禁止するというものだ。米軍を韓国に駐留できなくする条件だ。政治的には、北朝鮮の体制や人権のような問題に対して干渉せず外交関係を樹立することだ。
しかしトランプ大統領はこうした長期的な課題に関心がない。さらに北朝鮮は「完全で不可逆的な敵対視政策の撤回」という服に着替え、安全保障の程度を「タンタロスの池」のように上げたり下げたりする。米国が受け入れるのはさらに難しくなる。
2つ目、激化する米中の戦略的対立が北朝鮮の行動空間を広めている。北朝鮮がすぐに必要な制裁解除のために柔軟な取引に動くと期待することもできる。しかし北朝鮮はすでに相当な安全網を敷いている。今年6月、習近平主席は平壌(ピョンヤン)で「中国は北朝鮮の合理的『安保懸念』と『発展』に対する関心事を解決できるよう力が及ぶかぎり助ける」と述べた。中国が米国に対して北朝鮮の「合理的安保関心事」を受け入れるべきだと要求したのは新しいことではない。敵対政策の放棄、関係正常化、韓国に対する核の傘除去を骨子とするものだ。ところが、ここに「発展」に対する関心事を追加した。米国が対北朝鮮制裁を継続すれば、中国としては北朝鮮を後見するしかないという意味が込められている。
◆感性的な判断では安全保障できず
3つ目、米国国内の政治環境からみてトランプ大統領が「有能な交渉」をするのが難しくなっている。北朝鮮はトランプ大統領が直面した弾劾政局を利用した制裁解除を期待することも考えられる。しかしトランプ大統領はすでにウクライナ事件のように国内政治目的で対外関係を悪用するという非難を受けている。北朝鮮が望む取引は米国政治市場で逆風を浴びる可能性が高い。
いまトランプ大統領の大統領選挙時計と金正恩委員長の年末に進む時計が向き合って音を立てている。トランプ大統領は北朝鮮の核・長距離ミサイル試験の中止という従来の得点を維持するのが難しいと判断すれば、いつでも違う道を選択するだろう。一方、金正恩委員長は未来が不確かなトランプ大統領に政権の生存をかけた譲歩を先にしないはずだ。数日前には、これ以上はリンボにとどまらず、対米・対南攻勢の程度を高めるという信号として「人民の怒り」を動員した。
我々はどこへ進むべきなのか。まず、今からでも韓国が仲裁者でなく自らカードを握る果敢なプレーヤーへと姿勢を転換しなければいけない。これに合わせて韓半島の非常状況を想定した軍事態勢を固めなければいけない。戦争は終わったという感性的な判断では国の安全を保障できない。最後に我々の核政策を見直す必要がある。2006年に6カ国協議が膠着して道がふさがると、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は「我々も自らの核燃料サイクルを備えるしかない」として検討を指示した。盧大統領の言葉が耳に残っている。このすべての対応は国論団結と韓米間の信頼から始まる。
宋旻淳(ソン・ミンスン)元外交部長官
【コラム】韓国は北核仲裁者でない…果敢なプレーヤーになるべき(1)
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