豪州市民は、イラン難民出身のムスリムが犯した都心の人質事件で衝撃を受けたが、成熟した市民意識まで失ってはいない。国全体がムスリムテロに対する警戒モードに入ったが、今回のことがややもするとイスラムに対する憎しみにつながってはいけないという願いの発露だ。

人質事件が発生した１５日から、ツイッター・インスタグラムなどのソーシャルネットワークサービス（ＳＮＳ）では「＃あなたと一緒に乗ります」（＃ｉｌｌｒｉｄｅｗｉｔｈｙｏｕ）というハッシュタグ（ｈａｓｈｔａｇ、特定キーワードを共有するという表示）を付けて「反イスラムに反対する」という内容の文が続いている。１６日現在ツイッターでこのハッシュタグがついた文が２５万件を超えた。

「＃あなたと一緒に乗ります」熱風は、豪州ブリスベンに住むネットユーザー、レイチェル・ジェイコブス（Ｒａｃｈａｅｌ　Ｊａｃｏｂｓ）さんが１５日にフェイスブックに掲載した文から始まった。ジェイコブスさんは今回の人質事件が発生した後に乗った列車内で、あるムスリム女性に会った。隣の席に座ったこの女性は、周囲の視線を意識したように自分の頭に巻いていたヒジャブを静かに脱いだ。ジェイコブスさんは列車から降りたこの女性のところに走って行って「ヒジャブをもう一度巻いて下さい。私があなたと一緒に歩きますから」と話した。この言葉に、その女性は涙を流してジェイコブスさんと温かい抱擁をした後、１人で歩いていったという。平凡なムスリムが公共の場所で人々の視線をどれほど恐れて圧迫感を感じているのかを物語るエピソードだ。


この話を知った別のネットユーザー、テッサ（Ｔｅｓｓａ）さんは「宗教的な服装でマーティンプレイス（人質事件が発生した場所）に行く３７３番バスに乗る不安な方、私が一緒に乗って差し上げます。バスに乗る時間を知らせてください」というツイッターを上げた。すぐに「＃あなたと一緒に乗ります」というハッシュタグは野火のように広がり始めた。ツイッターには関連掲示物が２時間で４万件、４時間後には１５万件が上がってきたと英国ＢＢＣは伝えた。「＃あなたと一緒に歩きます」（＃ｉｌｌｗａｌｋｗｉｔｈｙｏｕ）というハッシュタグも一緒に人気だ。テッサさんはＢＢＣとのインタビューで「私たちは無力な傍観者ではない」として「『＃あなたと一緒に乗ります』運動は小さな動きだが、結局は大きな力を発揮することになるだろう」と話した。

豪州では最近、イスラムのスンニ派武装集団「イスラム国（ＩＳ）」の脅威が大きくなりながら「イスラモフォビア（Ｉｓｌａｍｏｐｈｏｂｉａ、イスラム嫌悪症）」も広がっている。特別な理由なくムスリム女性に罵声を浴びせたり、ムスリムが経営する商店に火をつけたりするケースもある。豪州のムスリム４４団体は１５日「罪のない人の命を狙ったり恐怖心を与えたりするような行動は非難する」として「イスラムという宗教はもちろん豪州のムスリムがこれによって侮辱を受けることになる」としてイスラム極端主義と一線を引いた。