北朝鮮の張雄（チャン・ウン）ＩＯＣ委員は、同僚委員に記者側を指して「危険な人物には気をつけないと。記者たちは言葉が多すぎるから」と冗談も言っていた。国際オリンピック委員会（ＩＯＣ）で北朝鮮を代表する張雄委員（７６）にとって、ソチ冬季オリンピックは孤独な時間だ。北朝鮮の選手たちが出場資格を得られなかったので単独で５～７日（現地時間）、ソチのラディソンブル・コングレスセンターで開かれたＩＯＣ総会で孤軍奮闘した。張委員は手を挙げて何度も発言申請をして「選手たちの教育において支援プログラムをさらにきめこまかく作るべきだ」という主旨の発言をした。同僚ＩＯＣ委員である英国のアン王女とともに相次ぐ発言をして同意を集める様子も見せた。彼は洗練されたマナーと流ちょうな英語・フランス語の実力でＩＯＣ委員の間でも人気が高い。

しかしＩＯＣ総会のマイクが消えるとすぐに彼は沈黙した。メディアとの接触に気をつけた。日本をはじめとする外国のオリンピック専門記者の間でも人気があった彼だったが、とりわけ保身を図った。南北が離散家族対面に合意した５日以前はＩＯＣ委員専用宿舎であるラディソンブルホテルのロビーにも簡単には姿を見せなかった。潘基文（パン・ギムン）国連事務総長とＩＯＣ委員との晩餐が開かれた後、自分の部屋に戻ったチャン委員にインタビューを求めたが彼は固辞した。１７日、スノーボードメダリストにメダルを授けることになっていたが、それさえも同僚委員に譲った。自身に照明が当たることを極力敬遠したのだ。そうするうちに離散家族対面を４日後に控えた１６日、彼にロビーでやっと再会した。このロビーに出入りしていた韓国メディアは中央日報だけだ。

－－離散家族の対面がうまくいきました。


「それは政治家たちがすることであって。私には分からない」

－－ソチオリンピックをどのように見ていらっしゃるのですか。

「記者のあなたたちのホテル関連の問題が多かったと聞いたが。施設運営全般ではちょっとスムーズではないけれども、競技自体はこれまでは立派だろう」

彼にソチの次の主人公である平昌（ピョンチャン）について尋ねないわけにはいかなかった。彼は返事を拒否して「何、一生懸命にやっているではないか。（平昌も）うまくいくだろう」と少し短く答えた。

張委員は、彼の接待を担当したロシアのボランティアメンバーであるアナスターシャ・リー（１９）が彼に「ロシア語が素晴らしい」と言うと、笑って「私は君たちが生まれる前からロシア語を話していた」と冗談を言った。アナスターシャはその後、記者に「電話だけで聞いているとロシア人と勘違いするほど」だといった。

記者を避けて専用車に乗ろうとする彼に、記者が最後にロシアのプーチン大統領をモデルにしたソチオリンピック記念品をプレゼントすると彼は「これは（プーチン大統領を）非難しようと作ったのではないか」と言って断った。記者はソチオリンピックの記念品店で偶然に見つけたロシア・北朝鮮親善交流記念切手も渡したが「これは私はすでにたくさんある。記者のあなたたちが持っていきなさい」と言って代わりに記者に名刺を４枚渡してくれた。▼ＩＯＣ委員▼中国人民大学名誉教授▼（北朝鮮）国際テコンドー連盟会長▼北京外国語大学（ＢＦＳＵ）名誉教授の名刺だった。車に乗った彼は、上品に手を振ってＩＯＣのホテルをゆうゆうと離れていった。