米原万里は文筆家として名をはせた日本女性だ。不治の病にかかり55歳で死去した。もともとはロシア語専門の通訳だった。ロシア語通訳に関する限り日本で彼女に並ぶ人はいなかった。死の数カ月前の2006年1月、彼女は週刊文春にこんな文を書いたことがある。
通訳として活躍していたころ、「このレベルまで通訳をするにはどれだけの語学力を持たねばなりませんか」という質問をたびたび受けたという。そのたびに彼女は、「その国の小説を楽しめるくらい」と答えたという。それこそ愚問に賢答だ。外国語で書かれた小説を読んで楽しめるというのは単純に語学の能力だけでできることではない。その国の文化と歴史、風俗と地理、時事まであまねく精通してこそ可能だ。その国の小説を楽しめるということは事実上半分ぐらいはその国の人になったという意味だ。1~2年の瞬間的な努力でできることではないという話だ。
好きなテレビ番組に「生活の達人」というコーナーがある。特定分野や職業で達人の域に達した平凡な人々を紹介するドキュメンタリー番組だ。人に認められなくても自身の仕事を天職としてほぼ一生をひとつの仕事に専念してきた人たちが主人公だ。一生懸命に生きる彼らを見るたびに尊敬とともに、これまで自分は何をしたかという自愧感を覚える。これまで彼らが経験した艱難辛苦を考えれば粛然とさえする。
米国の神経科学者でカナダのマクギル大学教授のダニエル・レビティン博士によると、特定分野で最高水準の専門家になろうとするならば最低1万時間はその分野に投じなければならないという。1日3時間を投資すると仮定すると、1日も休まず10年にわたり持続的に努力しなければならないという計算だ。その話通りにしようとするならいまごろ私はペンだけ持てば何でも一筆揮之できなければならないが全くそうでない。モニターの前にさえ座ればひざがしびれてきて、文を書くのが難しくなるのだろう。同じ1万時間でもどれだけ全情熱を傾けて没頭したかが重要だというほかはない。キム・ヨナがアイスリンクの上で美しく、「私は歌手だ」のステージに立った歌手が美しいのは苦痛と忍耐の1万時間を耐え抜いたためだ。
歌手チョ・ヨンナムが芸術の殿堂のオペラ劇場の舞台に立つという。音大に入学してから50年で初めて立つオペラの舞台だ。達人の域に達した人に与えられる栄光の贈り物だ。世の中生きるのが大変と騒がしい。それでも世の中のせいばかりにしていることはできない。その場では目立たなくとも着実に努力するならばいつか光を見る日がこないだろうか。新年の決心は三日坊主だとあきらめるのではない。挑戦してまい進する人が賢明な人だ。
ペ・ミョンボク論説委員・巡回特派員
通訳として活躍していたころ、「このレベルまで通訳をするにはどれだけの語学力を持たねばなりませんか」という質問をたびたび受けたという。そのたびに彼女は、「その国の小説を楽しめるくらい」と答えたという。それこそ愚問に賢答だ。外国語で書かれた小説を読んで楽しめるというのは単純に語学の能力だけでできることではない。その国の文化と歴史、風俗と地理、時事まであまねく精通してこそ可能だ。その国の小説を楽しめるということは事実上半分ぐらいはその国の人になったという意味だ。1~2年の瞬間的な努力でできることではないという話だ。
好きなテレビ番組に「生活の達人」というコーナーがある。特定分野や職業で達人の域に達した平凡な人々を紹介するドキュメンタリー番組だ。人に認められなくても自身の仕事を天職としてほぼ一生をひとつの仕事に専念してきた人たちが主人公だ。一生懸命に生きる彼らを見るたびに尊敬とともに、これまで自分は何をしたかという自愧感を覚える。これまで彼らが経験した艱難辛苦を考えれば粛然とさえする。
米国の神経科学者でカナダのマクギル大学教授のダニエル・レビティン博士によると、特定分野で最高水準の専門家になろうとするならば最低1万時間はその分野に投じなければならないという。1日3時間を投資すると仮定すると、1日も休まず10年にわたり持続的に努力しなければならないという計算だ。その話通りにしようとするならいまごろ私はペンだけ持てば何でも一筆揮之できなければならないが全くそうでない。モニターの前にさえ座ればひざがしびれてきて、文を書くのが難しくなるのだろう。同じ1万時間でもどれだけ全情熱を傾けて没頭したかが重要だというほかはない。キム・ヨナがアイスリンクの上で美しく、「私は歌手だ」のステージに立った歌手が美しいのは苦痛と忍耐の1万時間を耐え抜いたためだ。
歌手チョ・ヨンナムが芸術の殿堂のオペラ劇場の舞台に立つという。音大に入学してから50年で初めて立つオペラの舞台だ。達人の域に達した人に与えられる栄光の贈り物だ。世の中生きるのが大変と騒がしい。それでも世の中のせいばかりにしていることはできない。その場では目立たなくとも着実に努力するならばいつか光を見る日がこないだろうか。新年の決心は三日坊主だとあきらめるのではない。挑戦してまい進する人が賢明な人だ。
ペ・ミョンボク論説委員・巡回特派員
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