中国は最近までアジア企業海外投資の相当部分を誘致することで、究極の投資先と認識されてきた。 しかし中国内の賃金上昇、輸出から内需への経済転換の推進、日本企業に対するレアアース供給中断などは、アジア企業の投資に多くの変化をもたらす見込みだ。 最近までアジア全域の多くの生産ネットワークが生産施設を中国に移すと考えられていた。 しかしこうした見方は次第に弱まってきている。 中国の賃金が他の低賃金アジア国家に比べ、速いペースで上昇しているからだ。 中国東部の海岸地域では、有能な中国人職員を社内にとどめておくのが難しいほどだ。 これらの地域の製造業平均賃金はフィリピンやタイを上回る。
中国政府は賃金がはるかに低い内陸に製造企業を移転し、賃金上昇問題を解決しようとしている。 しかし内陸には熟練労働者が少なく、運送費もかかる。 このため一部では、世界の物価を抑えていた低価中国産の時代が終わったという声も出ている。 40年前の日本と同じように、中国製品も次第に付加価値が高まってきている。
中国の賃金上昇は、人件費が低いアジア輸出国家には新たなチャンスになるかもしれない。 ベトナムの場合、賃金競争力が高まり、最近は年8%を上回る成長率を見せている。 首都ハノイと近隣港町ハイフォンをつなぐ高速道路の周辺は韓国・日本企業の工場が目立つ。 バングラデシュもアジア生産ネットワークに連結して急速に成長している。
貿易と投資活性化で製造業がアジア低開発地域に広がり、アジアの経済統合の必要性が高まっている。 しかしほとんどのアジア政府は統合のための強制規定や義務に対して否定的だ。 危機だけがアジア政府の公務員に協力の必要性を実感させるようだ。 1998年の金融危機当時、アジア国家は金融保護主義に安住するよりも、未来の危機に対応できる共同の土台を用意した。 東南アジア諸国連合(ASEAN)と韓日中は「チェンマイ・イニシアチブ」(CMI)という通貨交換協定を締結した。
アジア経済が成長を続けていくためには、中国が偏狭な見解から抜け出す必要がある。 仮に中国が為替変動幅をさらに拡大し、ドルだけでなく主要国の通貨に連動する為替レート体制を選択する場合、アジア生産ネットワーク内の莫大な貿易黒字はアジア国家の通貨価値を全般的に高めるだろう。 各国がどれほど付加価値の創出に寄与したかによって通貨価値の上昇幅は変わるはずだ。 この場合、中国としては貿易黒字と莫大なドル資産保有の必要性が減り、アジア企業には自国で工場を稼働しようという動機を付与することになる。 アジアの指導者は、アジア生産ネットワークという事実上の地域統合による工場の海外移転リスクを減らすのに努力しなければならない。 そのためにはアジア国家は自国だけでなく、アジア全体の利益に関心を向けて、通貨・財政政策に対する協力を拡大する必要がある。
小池百合子日本自民党総務会長(元防衛相)
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