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神話に「食欲の化身」が登場するのは洋の東西で違いはない。ギリシア神話には「飢えの呪い」を受けたエリュシクトン(Erysichton)の話が出る。エリュシクトンは女神デメテルの神聖な庭園にある木を斧で倒し、これを止めた妖精を辱めた。震怒した女神は彼にいくら食べても虚飢を感じる呪いを下した。彼は次から次へ食いつき、とうとう大事にしていた娘まで奴隷として売って食べ物を求めた。すべて食べ尽くしても満足しなかったエリュシクトンは、手足から始めて自分の体をすべてかじった。死んでこそ無惨な呪いから解かれることができたのだ。
東洋のエリュシクトンは中国神話の中にもいる。人の顔と爪を持つが、体は羊であり、歯は虎の化け物だ。鉤呉山に生息し、九尾狐のように人に取りついては食べたと伝える。ところが貪欲さから人を食べても満足できず、自分の身までかみちぎったという。
抑制できない「食欲の苦痛」は神話の中の話だけではない。「エリュシクトン症侯群」と言えそうな「プラダーウィリー(Prader-Willi)症侯群」の患者には現実だ。大脳の視床下部の機能障害や染色体異常でできる病気だが、限りなく食べても満腹を知らない。当然、肥満を増やし、心臓病や糖尿病、高血圧、脳血管疾患などの合併症にかかる。食事の量の調節が絶対的だが、それが簡単とはいかず、並大抵の苦痛ではないそうだ。
呪いや疾病まではないとしても肥満が万人の悩みであることは明らかだ。映画「ブリジット・ジョンーズの日記」でブリジットがデートを控えてセクシーなパンティーをつけるか、ではなければ太った体を隠すために体形補正用下着を着るか悩むのは、それでもご愛嬌として見られる。肥満のため健康をこわすとかお金がかかるまでになれば問題は深刻だ。
ヨーロッパ航空会社であるエア・フランスが4月1日のフライトから、太った人に「肥満割増料」を賦課する計画があるという。昨年10月、米国では救急車の会社が肥満患者に正常料金の最高2倍にもなる割増料を賦課して問題になった。このままでは、またどんな肥満割増料が登場するかわからない。「新年の決意」リストにダイエットを入れた人が多いだろう。すでに三日坊主になってしまったとか揺らいでいたとしたら、この時こそ決意を新たにしてみるのはどうか。
キム・ナムジュン論説委員
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