独立運動家、安重根（アン・ジュングン）義士が中国・ハルピンに滞在した期間はわずか１１日にすぎない。

１９０９年１０月２２日夕、ハルピン駅に到着し、２６日の義挙直後に逮捕され、ロシア公館と日本領事館に収監された後、１１月初旬に旅順刑務所に移送される時までだ。短いといえば短い時間。しかし安義士が自身の存在を歴史に刻印させる瞬間だったという点から決して軽く長短を語れない。

◇安重根義士への再評価のキーワード「東洋平和論」＝瞬間は永遠につながった。ハルピンと安重根は切り離しては考えられない。安重根の歴史は現在進行形だ。同氏は新たに解釈されている。思想的な側面が特にそうだ。再解釈のポイントは東洋平和論である。ハルピン市の安重根義士記念館が所属する朝鮮民族芸術館のタン・ウォルファ館長（５３）が「安重根義士が求めた東洋平和の精神を、今日の中国人も見習ってほしい」としたのも、こうした流れを反映した発言だ。


ハルピン市で代表的な安重根研究家とされるソ・ミョンフン氏（７８）が繰り返し強調したのも東洋平和論だった。ソ氏は「安重根義士の東洋平和論は今日の観点から見ても先駆的な思想」とした上で「韓国で安重根の平和思想をなぜグローバル化しないのか」と反論したことがある。安重根は旅順刑務所に移艦された後、１９１０年２月１２日、旅順の関東都督府地方院で開かれた５回目の公判で最後の証言を行う際、伊藤博文を「奸智にたけた奸雄」と表現した。「英雄」と「奸雄」の道は異なった。安重根、伊藤両氏ともに東洋平和を求めたが、似ているからといって同じわけではなかった。

◇「英雄」対「奸雄」、二道の東洋平和＝伊藤の東洋平和は、隣国を侵略し日本に従属させることを目指し、実際そのように帰結された。「日本式の東洋平和」の総司令官、伊藤を安重根は「東洋平和を撹乱させる者」と定義付けた。安重根が、「東洋平和の撹乱」が含まれた伊藤の罪状１５を書面で作成し、関東都督府地方院の溝口検察官に提出したのは、旅順刑務所に移監されてから３日後だった。

思想的にもすでに「準備できていた義挙」でなかったならば、不可能なことだ。５カ月間にわたる収監生活と公判の過程で同氏は持続的に、伊藤を射殺することが「東洋平和の守護に向けた正義の懲戒」だったという点を強調した。獄中の著書に残した「東洋平和論」では、ハルピン義挙を「東洋平和義戦」と記述した。死刑台での最後の証言も「この義挙は東洋平和のために決行したものであることから、この場の諸君らも今後、韓日の和合に努め、東洋平和に尽くすよう願いたい」であった。

◇欧州連合の構想より７０年も先立つ＝安重根は「韓日中３国がそれぞれ独立を維持しつつ、相互扶助の道を探り、それを通じて西勢東漸の西欧帝国主義を防ぐとき、東洋平和を実現できる」と考えた。日本が侵略的な属性を合理化するために作った「大東亜共栄圏」というロジックのわなを同氏は見抜いて、その代案を構想していたのだ。