◆ソン・ガンホの再発見＝町内の医者として一生働いた映画の中の父はこの作品の笑い誘発因子だ。「私が一生働いて建てた家なのにどうしておばあさんの家だと言うのか」と反抗（？）する部分は、無愛想だった印象を一挙に崩す。「日本で昨年公開したときも観客たちは父が登場すると大笑いしていました。忘れられた家長の威厳をなんとか守ろうとする姿がおかしくもあり労しくもあったようです」

家族は血は通じるがひとまず成長して我が行く道を行けば、それこそ「同床異夢」の集団になるほかないという点も彼は背負っていく。映画の最後で良多の家族がバスに乗って去る場面は意味深長だ。父親は母親に「今度はお正月だね」と言う。しかしバスに乗った息子は妻に「今回来たからお正月はもういいね」「次の来たときは泊まらないで帰ろう」と言う。「私が思う、この映画でいちばん残酷な場面です。息子に無神経なように見えた父は、実際は息子の訪問を待っているのですが、息子は全く違うことを言うからです」

「主演として起用したい韓国俳優」を尋ねた。「ソン・ガンホさんですよ。『グエムル』でちょっとコメディーの要素があったのですが、今回、カンヌで会ってみたらスマートで、セクシーで、魅力的な俳優でした。是枝が一緒に映画を撮りたいと言っていたと必ず書いてくださいね（笑）」


◆是枝裕和＝１９６２年生まれ。国内に「ワンダフルライフ」（１９９８）「誰も知らない」（２００４）「花よりもなほ」（２００６） などで固定ファンをもつ日本の代表現役監督だ。日本の現代社会を冷静にえぐる視線は鋭い。お母さんが楽しんで歌った流行歌「ブルーライトヨコハマ」の歌詞からタイトルを決めた「歩いても歩いても」は「２００９アジアンフィルムアワード」監督賞を受賞、日本国内６の映画祭で受賞している。



「歩いても歩いても」公開控えて来韓した是枝裕和監督（１）