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これが話の力だ。われわれにはうらやましい話だが、日本の推理小説の力とも言える。最初からだれが犯人なのか露出して始まるのに終始観客の目を放させない。それも観客の虚を突くトリックがあふれる方にではなく、人間について振り返らせる方にだ。
アリバイを作ってやる男、アリバイの虚を暴く男。拮抗する頭脳勝負を展開する2人は、大学時代に知り合った数学の天才たちだった。しかし映画は頭脳ゲームの成敗で終わらない。最後の一発が残っている。もちろん目端の利く観客ならいくつかの伏線から予想するだろうが、いざ事件の全貌が現れる瞬間、感情的に巻き込まれることから逃げるのは容易ではない。推理もののタイトルとしては異例の「献身」という単語が示すように、「容疑者Xの献身」は数学と論理の合理的な世界に対比される非合理的で不可解な愛について語る映画でもある。
日本の人気推理小説作家、東野圭吾の2006年直木賞受賞作が原作。天才物理学者の湯川を主人公にしたシリーズ、「探偵ガリレオ」「予知夢」に続く作品だ。「ガリレオ」の演出家で「白い巨塔」でも有名な西谷弘がメガホンを取り微妙な心理描写に深みを加えた。
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