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「霜月の長き夜を切り取って、春風の布団の中に畳み入れ…」という黄真伊(ファン・ジニ)の時調はよく知られている。徳の高い高僧を誘惑したかと思うと、儒学者徐敬徳(ソ・ギョンドク)とは興味深いロマンスを繰り広げて朝鮮文壇の一角をなした有名妓生だ。
彼女に劣らぬ唐の芸妓がいたが、彼女の名前は薛涛だ。名前そのものは聞き慣れないが、私たちに親しまれている歌謡「同心草」の原作詞者だ。「花びらは止めどなく風に散り、会う日はかなた約束もなく…」という内容は40代以上の人なら一時静かに吟じたことがある大衆歌謡だ。
薛涛が書いた「春望詞」という詩を金素月(キム・ソウォル)の師である詩人、金億(キム・オク)が飜案して付けた。全体の詩の内容をそのまま生かすことはできなかったが、一段落を移して書いた歌詞は哀切な曲調とともに解放直後、慌しかった人々の心に大きく響いた。
歌に出る「心を心を結ぶことができず、むなしくも草の葉ばかり結ぼうとするのか」という内容は薛涛の詩「心をひとつにしようとする人とは結ばれず、ただ同心草のみを編む(不結同心人、空結同心草)」という有名な句節を意訳したのだ。
薛涛が一時夫婦の縁を結ぶかと思われた相手は唐の詩人元稹だ。10歳の下の男に恋心が生まれたが、2人の間は長く続かなったという。元稹を想いながら作った詩か明らかではないが、その可能性だけは十分だ。
それだけではない。白居易と劉禹錫ら有名文人、薛涛が滞在した四川地域を経て行った多くの官僚たちが彼女と楽しんで詩を交わした記録がある。薛涛は特に淡い赤を入れ、詩を書いたりあいさつをしたりする用途として直接作った紙「薛涛箋」でも名を残した。
このごろ5万ウォン券に描かれた申師任堂(シン・サイムダン)の姿をめぐり論議を呼んでいる。朝鮮の碩学、栗谷李珥(ユルゴク、イ・イ)の母親である申師任堂の顔がどうだと誰も気軽には言えない状況だ。彼女の本当の姿について知られていることがないからだ。
国家で決めた標準遺影の姿と違うとして5万ウォン券の申師任堂が「妓生に似ている」「酒場の女のようだ」という非難を並べる人々がいる。まず妓生の黄真伊と薛涛が腹を立てるだろう。絵は絵の問題だけを指摘するのが正しい。身分と職業の貴賎を指して人を評価するのは時代錯誤的だ。「王侯将相寧ぞ種あらんや」という言葉が出たのが2200年前だ。
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