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スポーツの世界には「勝者効果」(winner's effect)というのがある。男性選手の場合、勝利をおさめれば男性ホルモンであるテストステロンが盛んに分泌する。テストステロンの数値が高くなるほど競技力も向上するので、一度勝者になればそのまま勢いに乗って勝つことができるわけだ。ただ、過多分泌したホルモンが合理的判断を揺るがしてあっけないミスを犯すまでは。
「ショットゲームの天才」フィル・ミケルソンのゴルフ人生に大きな汚点として残った2006年USオープン最終ラウンドがまさにそうだった。その年PGAツアーで相次いで2勝をあげた彼は、勢いに乗ってこの大会も飲み干すかというところだった。ところで18番ホールでラフに落ちたティーショットをグリーンにまっすぐに乗せようとしたが、つい球をもっと深いラフに落としてしまう。欲に目がくらんで優勝カップの代わりに「メジャー大会史上最悪の終わり方」という嘲弄をされただけだった。
今回の金融危機もテストステロン過剰がもたらした惨事という主張が起こっている。競争心と攻撃性をたきつけるテストステロンに振り回され、投資銀行家たちがハイリスクハイリターン派生商品を先を争って出したというのだ。株式仲介者出身神経科学者(ジョン・コーツ・ケンブリッジ大学研究員)が言った話だったため、なお興味深い。先日のダボスフォーラムでも「もしリーマンブラザースではなく “リーマンシスターズ”だったら決して金融危機が起きなかった」とため息がもれた。禁女の領域というだけに、男性一色であるウォール・ストリート文化が主犯だと指摘されたのだ。
それでテストステロン分泌量が男性の数十分の1にすぎない女に金融を抱え込ませようという代案が浮び上がった。肝が小さく、大きな事故は起こせないだろうという計算だ。米国のオバマ政権が金融監督の首長である証券取引委員会(SEC)委員長に初めて女性を座らせたのが代表的だ。国家破綻の事態に陥ったアイスランドも国有化した3大銀行のうち、2カ所に女性頭取を火消し役として投入した。今こそ金融界にひとつ女性の風が吹く時だ。
そうだと一握りしかならない女性金融家たちがすべての席を占めることはできないから男たちもホルモンの誘惑と争って勝ち方を考えなくてはいけない。元老の助言が役に立つはずだ。「よく知らない金融商品は買うな。自分が買いたくない商品は他人に売るな」。昨年「ユーロマネー」が最優秀銀行に挙がり、バンコ・サンタンデル(スペイン)のエミリオ・ボテン会長が明らかにした危機防止法だ。しかしそんな基本を守ることさえ男たちには容易でないと思うようだ。4代目銀行業を続いて来た彼も6人の子どものうち娘1人(サンタンデル投資部門代表)を早々と後継者として目をつけたからだ。
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