|
1980年代半ば、英国のある製薬会社が抗うつ剤の臨床試験を行った。 驚いたことに、喫煙患者の場合、一斉に喫煙欲求が消えた。 ニコチンと抗うつ薬が似た役割を果たしたのだ。 ニコチンは脳の中で快楽と関係がある化学物質ドーパミンの分泌を促進する。 喫煙者にとって禁煙が難しい理由だ。慣れた快楽と決別し、憂うつ・不安・焦燥と戦う決然とした意志がなければ、ニコチン中毒から抜け出すことは永遠にできない。
新年の決意で甘い中毒との絶縁に苦しんでいる喫煙者だけではない。 米国と中国がちょうどこうした境遇だ。 両国はさる数十年間、お互いを中毒にさせ、双方にとって良い時代を謳歌した。 価格の安い「メード・イン・チャイナ」商品をどんどん買う米国があり、中国経済は2けた成長を継続できた。輸出で稼いだ莫大なドルを中国は米国国債に投資した。 そのおかげで米国人は我先にと融資を受け、大きな車や大きな家を買った。政府も国民も負債を恐れず人の金でぜいたくに暮らしてきたのだ。
米国と中国の相互中毒状態をハーバード大教授(経済史学)ニーアル・ファーガソンは「チャイメリカ」(Chimerica)と命名した。 「チャイメリカ」が全世界を揺るがしている経済危機の背景の一つに挙げられている。 最近ニューヨークタイムズは「使うことを知らず貯めるばかりの中国が低利で金を貸したせいで米国の消費狂風、住宅市場バブルが触発された」と皮肉った。
しかし誰の責任がより大きいかを問うのはおかしい。 米時事週刊誌ニューズウィークの編集長ファリード・ザカリアは著書『アメリカ後の世界』で密接にかみ合って動く米中経済を冷戦時代の「相互確証破壊」(MAD)に例えた。 米国とソ連がお互いを潰滅させる核兵器を保有したのがむしろ核戦争を抑止したように、米国と中国が経済的に「恐怖の均衡」状態を維持しているという意味だ。「チャイメリカ」による平和と繁栄も虚像にすぎないということだ。
禁断の苦痛が大きくても米国と中国は中毒から抜け出し、健康を取り戻さなければならない。 米国は輸出競争力を改善して経常収支赤字を減らし、中国は消費を促進して輸出不振による景気沈滞を防ぐべき、というのが専門家の処方だ。 容易ではないが、それが両国を生かす妙薬なのだから仕方ない。
この記事を読んで…