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ドン・カミロ。 イタリアの国民作家と呼ばれるジョヴァンニ・ガレスキ(1908-68)の小説『ドン・カミロ』シリーズの主人公だ。
舞台はポー川流域の小さな村バサ。 言葉よりも行動が先立つ司祭ドン・カミロは、根っからの共産党員の村長ペポネと争う関係だ。 ドン・カミロが聖堂の鐘を突いて共産党集会を妨害すれば、ペポネが司祭館の前に遊園地の施設を並べ、騒音公害で報復をする。 幼稚な争いは殴り合いになることもある。
しかし2人の葛藤が‘最後’まで行くことはない。 ある日、ペポネが悔悛をしに来る。 ドン・カミロは「2カ月前の夜、あなたを棒で殴ったのは自分」と告白するペポネの罪をやむを得ず神の名前で許したが、気持ちは全く収まらない。 イエスに了解を求めた後、ペポネの背中を蹴飛ばす。 ペポネは「もう気持ちがすっきりした」と話し、2人の顔に笑みがこぼれる。
ガレスキが『ドン・カミロ』シリーズの執筆を始めたのは1946年。 第2次世界大戦当時、3年間の捕虜生活を終えて帰ってきた祖国は深刻な左右対立で分裂していた。 ガレスキは中道路線の週刊誌を創刊したが、共産党とキリスト民主党をともに批判する名誉棄損罪で1年間、獄中生活を送った。 ガレスキが死亡したのも監獄で始まった心臓病のためだった。
曲折の生活を送ったガレスキは、イタリア人が自分の小説を読んで少しでも現実を忘れて笑うことを望んだようだ。 自ら出した葛藤克服の処方も込めた。 「すべての人間は善良だ」という信頼で疎通し、理念対立の傷を治癒しようということだ。
30年間にわたり企業コミュニケーションコンサルティングをしてきた米国のジョセフ・グレニーは『決定的瞬間の対面』で、「疎通が行われないことは‘向こうは元々そうだ’という先入観が障壁として働いているため」と指摘する。 『The Coward’s Guide to Conflict』(ティム・ウルシニー)も、対抗して争ったり徹底的に回避するのはともに誤った方法だという。 「向かい合って自分の考えを話し、相手の態度よりも関心事を把握しろ」ということだ。
今年も政治や社会の各分野で対立と葛藤が終わることを期待するのは難しそうだ。 争っても相手の主張や論理より底意や態度から攻撃するのは慎むようにしよう。 ドン・カミロの質朴な声が恋しくなる時だ。
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