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発表から80年経った小説が今になってベストセラーになったとすれば、土の中にいる作家も驚いて目覚めるかもしれない。 こうした異変が今の日本で起きている。 小林多喜二の1929年作『蟹工船』のことだ。 今年1年間、例年の100倍の50万部を印刷し、経済専門誌が選ぶヒット商品目録に入った。 ハングル翻訳版も登場した。
『蟹工船』ブームは、時々訪れる復古ブームではなく、深刻な社会・経済的危機の産物だ。 小説が出版された当時、ロシア・カムチャツカ半島沖は日本の蟹漁船が網で大儲けした黄金漁場だった。 蟹漁の船団を保護するために日露戦争で勝った日本海軍の駆逐艦までが出動するほどだった。。 蟹漁船を「漁船」ではなく「工船」と言ったのは、その場で缶詰めを作る工場までも兼ねていたからだ。 実話をもとにした『蟹工船』は、雇用を求めて船に乗った労働者の非人間的な処遇を告発し、彼らが自発的に労働争議を起こす過程を描いたものだ。
文学史教材として登場するだけで、現実の中にはとっくに忘れられていたプロレタリア文学を、21世紀の読者が、それも20-30代が耽読している理由は何か。 格差社会の深刻化、正社員になるのが奇跡に近い就職難、派遣社員として耐えなければならない劣悪な労働条件と解決策の不在…。 こうした現実に挫折した若い世代が自らを蟹工船の労働者と同一視する現象がこの小説のブームを起こした、というのが日本社会の診断だ。
復活したのはプロレタリア文学だけでない。 ドイツでは今年に入ってカール・マルクスの『資本論』の販売量が急増した。 特に米国発金融危機以降、こうした傾向が目立っている。 学問的な領域ではなく大衆的な関心の対象からはかけ離れていた『資本論』を読者がまた読み始めているのは、昨今の危機を招いた「カジノ資本主義」に対する不安と懐疑のためであるはずだ。 先日、英国聖公会のローワン・ウィリアムズ・カンタベリー大主教はある寄稿で「想像しがたい虚構と架空の取引(paper transaction)が想像を超越する利益を生む実像が金融危機によってそのまま表れた」と指摘した。 そしてこのようにタイトルをつけた。「マルクスの資本論は部分的に正しかった」。
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