景気後退（ｒｅｃｅｓｓｉｏｎ）と不況（ｄｅｐｒｅｓｓｉｏｎ）は区別があいまいだ。 誰も１９８０年のロナルド・レーガンほど明快に比較できなかった。 「隣人が職場を失えば景気後退で、自分が職場で解雇されれば不況」と。 レーガンはそっと相手候補を皮肉るセンスも忘れなかった。 「景気回復は（経済を崩壊させた）ジミー・カーター候補がついに失業者になったという意味です」。当初、参謀陳は個人の生存のかかった失業はあまりにも危険な素材だとして引き止めた。 レーガンは逆の発想を注文した。 レーガンはその年の米国大統領選挙でこのユーモア一発で圧勝した。

７４年のホラー映画「悪魔のいけにえ」。猟奇的な殺人と食人行為を描写している。 主人公の殺人魔３兄弟はもともと田舎の牛屠殺場で働いていた純粋な人物。 時代が変わり自分たちの技術が無用になると、その怒りと喪失感に勝てず、無慈悲に人間を殺害する。 Ｂ級映画のこの作品が評壇の好評を受けたのもこうした社会意識のためだ。 当時、第１次オイルショックで米国では失業が蔓延した。 失業は一時的な罠ではなく、ぞっとするような恐怖を伴う「抜け出せない罠」と認識された。


経済学の教科書は大量失業を最も危険な経済現象と見なしている。 自然災害や戦争よりもはるかに破壊的だ。 生活が崩れ、家庭は破壊する。 ホームズとレイの報告書（６７年）によると、人間が受けるストレスのうち職場での解雇は８位にあたる。 これよりも苦痛なのは配偶者や家族の死、離婚、監獄生活だけだ。 解雇による後遺症を調査した報告書もある。 失うものは賃金・安定感・自信・夢・家族関係・社会的地位など１３種類にもなる。 その代わり得るものは借金・アルコール・夫婦喧嘩・孤独感・権威喪失など１２種類という。

全世界的に解雇の風が吹いている。 来年の米国の失業率は８２年の不況（１０．８％）と９０年の不況（７．８％）の中間程度と推算される。 私たちも例外ではない。 解雇を伝えるニュースが紙面を満たし、勧告辞職・名誉退職という単語が初冬の風よりも冷たい。 かといって大量失業を防ぐための特別な解決法はない。 わずか２つだけだ。 一つは公共投資を大きく増やすことで、もう一つは企業・正社員・非正社員がお互い譲歩して耐えて行く道だ。 いつよりも労使政の大妥協が切実な時期だ。 あちこちでむやみにチェーンソーが動き出してはいけない。 失業までもユーモアにするレーガン式の余裕がうらやましい。 私たちも少しずつ譲歩することはできないものか。