１９５６年のノーベル物理学賞がウィリアム・ショックレーと彼の同僚たちに授与されたのは賢明な決定だった。今日のデジタル文明はショックレーの業績であるトランジスターの開発に莫大な借りを作っているからだ。そのショックレーが１９６０年代、米国社会に大きな波紋を投げかけた。「人間の知的能力は先天的に決定されるが、科学的技法の知能指数（ＩＱ）検査は黒人が白人に比べて知能が劣るという点を示している」。後に米国女性にノーベル賞受賞者の精子を分譲しようという動きが出てきた際、最も先に手を挙げたのもショックレーだった。

優生学に心酔したショックレーが黒人侮蔑論理を繰り広げた時期は、米国社会全域に火のように黒人公民権運動が広がった時期と一致する。６８年の公民権法制定以降、米国は法的・制度的には人種間差別がない社会になった。ショックレーのように勇敢な人物は少なくとも公的論理の場からは消えた。日常対話で許されるのは黒人居住地域を指しながら「あの街は治安が不安定だ」と話す程度だ。下手に差別問題を口にすると、不本意にも人種主義者（Ｒａｃｉｓｔ）という烙印が押される。ＤＮＡの二重螺旋構造を明らかにし、生命工学の宗祖になったノーベル生物学賞受賞者のジェームズ・ワッソンは１年前、ショックレーと似た発言をし、研究所長の席を退くことになった。


今年の米大統領選では過去初めて黒人が有力候補として出馬したが、人種問題とは関係なく進行している。選挙問題にならないのはもちろん、世論調査の支持率で７％ポイント以上もリードしているバラック・オバマ候補の支持率も、黒人人口が高い州と低い州で特に相関関係がない。

にもかかわらず、メディアは繰り返しブラッドリー効果を終盤の変数として取り上げている。根強い人種主義が社会の底辺からきれいに消えたと信じる人は誰もいない、という傍証でもある。８２年にカリフォルニア州知事選挙に出馬した黒人のトム・ブラッドリーは世論調査でリードしていたが、実際の選挙では敗れた。その後、いくつかの地方選挙でも似た例があった。人種主義を社会的タブーとする雰囲気のため、世論調査では白人有権者が本心とは異なる回答をするという説明があった。果たしてどれほど多くの米国人が今でも「黒人大統領は時期尚早」という本心を持っているだろうか。開封間近、８日後に解答が公開される。