![]() |
|
リップスティックが広まったのは16世紀の英国だ。 エリザベス1世が白い顔に赤い唇化粧法を流行させ、リップスティックが大人気を呼んだ。 化粧品産業が本格化した20世紀初めにはハリウッド映画が大きく寄与した。 ハリウッド初期のメジャー映画会社は、金髪に赤いリップスティックを塗った美女スターを女神のようにスクリーンに登場させ、これが世界的な美と化粧の標本になったのだ。
リップスティックは成熟した女性の象徴だ。 キスや性愛を意味することもある。 大人になりたがる少女の熱望は、母のリップスティックを盗んで試してみることで表現される。 男性が舞台化粧用に塗るリップスティックは‘マンスティック’と呼ばれたりもする。 ‘リップスティックレズビアン’といえば、ゲイや女性の両性愛者を意味する。 ‘シャツの襟についたリップスティック’(lipstick on his collar)は浮気をする夫の婉曲語法だ。
‘リップスティック効果’という言葉もある。 経済不況の時はリップスティックのように安い価格で消費者を満足させる商品がよく売れるという、格安製品を好む趨勢を意味する。
米国政界に時ならぬリップスティック論争が起きている。 バラック・オバマ民主党大統領候補がサラ・ペイリン共和党副大統領候補を狙って「唇にリップスティックを塗っても豚は豚」と発言したのが性差別波紋を呼んだのだ。 ペイリンが自分を子どもの世話に余念がない‘ホッケー・マム’に例えながら、「ホッケー・マムと闘犬の違いはリップスティックを塗っているかどうかだけ」と発言した直後に出てきたからだ。 オバマは直ちに収拾に乗り出したが、中年白人女性の有権者の冷ややかな反応はなかなか収まらずにいる。
そういえば「豚に真珠」という言葉もある。 「犬の足に蹄鉄」のようにふさわしくないことを意味する表現だ。 そうでなくとも好感度の低い動物である豚に、帽子やネクタイでもよかったものの、よりによって女性の象徴であるネックレスだ。 ‘豚リップスティック’も‘豚ネックレス’も否定的なニュアンスに女性の装身具を持ってきた。 言葉に染み込んでいる性差別の痕跡だ。
この記事を読んで…