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【噴水台】力ある者



19世紀末の上海に不慣れな馬車が現れた。馬を操る御者の席はたいてい馬のすぐ後ろ。ところがこの馬車の格好は違った。主人が座る箱型座席の後ろに御者の席があるのだ。だからいちばん後ろにくっついている格好だ。その上に箱型座席の内部の飾りが非常に豪奢だった。皮革カバーに床面にはじゅうたんが敷かれた豪華版。この高級な馬車は上海の人々の耳目を引いた。形が珍しい上、普通の馬車よりもっと高かったからだ。

この馬車は輸入品だった。作った人はイギリス人ジョセフ・ハンサムだ。このハンサムという人の名を中国人たちは「亨生」と音訳した。当時、上海でこの馬車を買って走らせるに値する中国人の財力家は珍しかった。それこそかなりの金持ちが意欲を出すことができないほど高価だったわけだ。この馬車を引いていた人々には馬車製造者の名前を音訳した発音の前に“大きい”という意味を付けて「大亨」といった名前がつけられた。後に上海を含めた中国の大都市で、暗黒街を活躍する組職暴力団の親分、巨大な富を蓄積し、地域全体で強い力を世に示す人を意味する言葉として落ち着いた単語だ。


実は中国語では力強い人の尊称に関する単語が目立つ。一般の中国語で自分より年上の男性を称えるときは「大哥」という。1970年代、韓国の若者たちを銀幕の前に呼び集めたカンフースターのブルース・リー(李小竜)の『唐山大兄』という映画の「大兄」という単語もこの類だ。お金が非常に多く一定の勢力を率いることができる人の場合は大款と呼ぶ。最近もこの言葉は流行だ。女性同士が取り交わす言葉の中に「カネのある男を誘惑する」という言葉は、頭に「傍」という字を付けて「傍大款」と書く。

大きくて力が強い人に対する敬畏の心は自らがそんな人になろうとする渇望の表現でもある。中国文化には権威とそれにふさわしい力を持った存在を恐れたり羨む心理があったように見える。約400億ドルをかけて開催する今回の北京五輪が特にそうだ。五輪のすべてのものが超大型で超豪華版だ。自ら世界の中心になろうとする中国の意志が十分に覗き見えるオリンピックだ。

力ある人を肩越しにちらっと眺めてばかりいた中国が、いまや自ら力のある地位につこうとしているのか。そのスケールに込められた“力ある者を意識する姿”が非常に目を引く。



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