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日本の福田政権は、ようやく落ち着いて外交を行う態勢になってきた。昨年7月の参議院選挙での自民党大敗をうけ、安倍晋三首相が突然辞任し、急遽誕生したのが福田政権であった。解散のあり得ない参議院で野党に過半数を握られている福田政権にとって、法律を通さなければ実現しない課題において、ほとんど自由度はなかった。最大野党である民主党が賛成しなければ、日本銀行総裁すら任命できなかった。しかし、今月にはいって、通常国会が事実上終わり、福田首相は、久々に内政にとらわれずに外交に専念できるようになりつつある。
今後も国会における勢力分布は変わらないのであるから困難な状況は続く。しかし、野党が先週、参議院で「問責決議」を成立させたにもかかわらず、首相がこれを無視し、淡々と政権運営を続けていることの意味は大きい。法的にいって、参議院における「問責決議」には、衆議院の「不信任決議」のような辞職を迫る拘束力はないのであって、その意味で首相が、これを無視しても法的には問題ない。しかし、以前には、参議院の「問責決議」を受けて閣僚の一人が辞任するという先例があった。世論の反応如何では、「問責決議」への対応は大きな意味を持つ可能性があった。しかし、今回、「問責決議」直後に行われたマスコミ各社の世論調査では、内閣支持率は20%から25%のレベルで低くはあったが、前回の世論調査から低下をしておらず、当面「下げ止まった」と見られている。現在の福田政権は、世論調査をするたびに支持率が下がるという状況からは脱することができたのである。
福田首相が「問責決議」を無視できたということは、現在の衆議院議員の任期が終わる来年9月までは、政権を担当しうるということを意味する。首相には、衆議院をいつでも好きなときに解散する権利はあるが、首相が解散をのぞまなければ、解散する必要はない。現在の衆議院は与党が三分の二の過半数を持っているので、野党との対決が必要な時には国会は紛糾するが、これまでの経緯からすれば、それ自体は致命的ではない。
以上の経緯からして、福田首相は、ようやく自らが得意と考える外交に専念しうる状況になりつつあるのである。もちろん外交課題もまた容易ではない。7月7日から北海道の洞爺湖で開催されるG8サミットの直面する課題は極めて困難なものである。地球全体で温暖化ガスを2050年までに半減させるという目標を目指して、気候変動に対する具体的な措置をどうするのか。原油価格や食糧価格の異常ともいいうる高騰にどのような対策を出すのか。アメリカのサブプライム問題に端を発する世界的経済の動向をどう導くのか。一つ一つの問題を考えても、容易に具体的な成果を上げることが困難な問題ばかりである。
しかし、G8サミットやこれと連関して行われる様々な首脳会議は、それ自体は、国際的な決定機関ではない。このサミット外交の主な機能は、直ちに問題解決につながる決断をすることではなく、長期的な国際的決定を向けた合意形成の方向性をどれだけ作れるかということにある。
そして、その意味では、これまでの国内政治上の困難にもかかわらず、福田内閣は、日本の政権としては相当の準備をしてきたことは間違いない。一つの焦点である地球温暖化問題については、福田首相は、1月末ダボスで開催された世界経済フォーラム会議で、この問題についての日本の基本的考え方を提示し、この6月9日には、さらに具体的に、日本は温暖化ガスを2020年までに現状から14%削減し、2050年までに現状から60から80%を削減すると宣言した。福田首相のいう「低炭素革命」を起こすという目標は、G8サミットとしてふさわしい。また、福田首相が指摘するように、京都議定書の枠組みに入っていなかったアメリカ、中国、インドなどの諸国が参加できる枠組みを作ることが何よりも求められているということは誰もが認める事実であろう。
もちろん、G8サミットのみが外交ではない。東シナ海における日本と中国とのガス田の共同開発の合意が成立すれば、日本と中国の関係は一層安定するであろう。北朝鮮との間の拉致問題は依然として困難な課題であるが、他の分野での外交の成功は、福田政権にこの問題についてもある程度の自由度を与えるかもしれない。福田政権の内政を見て、日本人の多くは福田外交についてもそれほど期待はしてこなかった。しかし、実際には、日本人の多くが想像してきたよりも福田外交は成果を上げつつあるように思う。
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