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「日本のヘレン・ケラー」と呼ばれる東京大学先端科学技術研究センターの福島智・准教授(45)が博士号を取得することになった。
福島さんは目と耳がともに不自由なのにもかかわらず東京大学で教授となった人物。全盲ろう者の博士号取得としては日本初の福島さんは11日、東大で、自身の日記と作文、録音テ―プなどの資料を分析し、指点字で他人との意思疎通が可能になった経験を記述した論文で、博士号を受ける予定だ。
神戸出身の福島さんは生後5カ月で患った眼球の炎症により3歳で右目を、9歳で左目を失明した。1年間、自宅で療養した後、盲学校に通った。しかし不幸は終わらなかった。15歳のときに特発性難聴で右聴力を、18歳のときには左聴力まで失った。
深い水中に沈んでいくような絶望感だったという。同氏は全盲ろう者の苦しみを「消されたテレビ」にたとえる。耳が不自由な人はテレビの画面だけを見ているのと同じで、目が不自由な人は音だけ聞いているのと同じだとすれば、全盲ろう者は「テレビの電源を切ったのも同然の状態」というたとえだ。
完全な暗闇と寂寞感から福島さんを立ち直らせたのは母親の令子さん(74)だった。福島さんは「母の限りない励ましのおかげで私は“これ以上沈めない。どん底から這い上がって自分の人生を設計しよう”と自信を徐々に取り戻していった」と当時を回想した。
母は点字を習って息子と対話を交わし、世の中の話を聞かせてくれた。しかし重いタイプライターの持ち歩きは大変で、外出すると疎通の方法がなかった。ある日、息子ともめている途中、もどかしくなった母が、思わず点字タイプライターの指使いで福島さんの指に「サトシ」と打った。福島さんは思わず「はい」と答えた。「指点字」が誕生した瞬間だった。
指点字は、2人が指を重ねて点字タイプライターをたたくような動きで意思を伝える方式だ。現在、日本国内の約800人にのぼる全盲ろう者の中にも福島さんの指点字を利用している人がいる。
→東大の博士となった「日本のヘレン・ケラー」(2)へ続く
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