◆韓国の社会的信頼度、ＯＥＣＤ最下位圏

過去の災害克服事例を振り返ると、どのような要素が成功と失敗を分けたのか知恵を得ることができる。ハーバード大学保健大学院のイチロー・カワチとリサ・バーグマンは災害を経験した２つの都市の事例を分析した。結論から言うと、災害の物理的波及力そのものよりも社会がどのように対応したかによって被害規模が違った。地震を例にあげると、リヒター規模で測定された地震の強さのせいではなく、社会的対応をどのようにするかによって犠牲の規模が違った。

２人の研究者は地震の被害があった神戸（自然災害）と、ヒンズー教とイスラム教間の宗教的葛藤が都市を破壊するインド（社会災害）の分析を通じて、２つの事例で共通して存在する肯定的要因を発見する。それはすなわち社会的資本である社会的信頼だった。


神戸淡路大震災という同じ物理的災害を経験したとしても、それ以前から長年にわたり地域住民たちの間で協力活動が行われて連帯感を培ってきた地域では、自発的救助活動が行われてみんなで一緒に火を消して共同の住居地を復旧し、互いに消息を共有して回復がいち早く進んだ。そのような社会的信頼の結合がない近隣地域の人々は災害で崩れていく地域をただ見つめるしかなかったが、それとは違うということだ。

宗教葛藤の社会災害を経験したインドでも同じだった。イスラム教徒とヒンズー教徒が頻繁に接触して共に参加する地域社会活動、例えば宗教の違いを越えて読書クラブや他の団体活動が活性化した地域では、宗教を誹謗するフェイクニュースや暴力を助長する扇動に揺れることなく平和を守ることができた。

２つの事例からともに「信頼」という社会的資本が人と社会を守った。当たり前ではないかと思うかもしれないが、その当たり前のことが守られていない韓国の現実を振り返る必要がある。冷静に見ると、残念なことに経済協力開発機構（ＯＥＣＤ）加盟３９カ国のうち韓国の社会的信頼度は最下位から２番目の水準だ。

◆一緒に暮らしていく技術の訓練を

最も多く言及される解決法は接触と疎通だ。世代と地域・階層が他の人に継続して会い、対話をして、顔なじみになれば互いに対する理解が高まる。接触仮説によると、見慣れない者との接触を通じて他人と他文化に対する知識が高まり、偏見が薄らぎ不安が減少して信頼の関係が築かれることになる。

第２は、共同体の信頼を破る行為に対する厳格な法執行だ。特に既得権に対する厳正で強力な法執行が社会的信頼を高める。第３は、客観的データの構築だ。政治的立場とは関係なく、全員が受け入れることができる科学的な根拠の上で健全な論争が可能だ。同じ根拠を見て異なる解釈をし、論争するのは自然なことだ。しかし政治的に偏向したいわゆる知識人と専門家が作り出すゆがんだデータからは社会的信頼の構築が不可能だ。

最後に、一緒に暮らしていく技術を訓練しなければならない。信頼は漠然とした信頼だけで得られるのではない。共同方向に合意して合理的規則を共に作ってこれを守り、信頼を守って生きていくときに報酬を得る経験を子どものころから自然に練習しなければならない。他人と共感でき、違いに対して健全な論争ができる能力があってこそ社会的信頼が可能だ。

◆理念・政派を離れた共通分母の共有を

私たちは今、災害の回復段階のうち最も長く難しいトンネルを通過している。危機を乗り越えていくために、社会的信頼がこれまでになく必要だ。

９日、韓国人として初めてゴールデングローブ男優助演賞を受賞した俳優オ・ヨンスが出演する『イカゲーム』に登場する「カンブ」（相棒、仲間、同盟といった意味）という言葉が共感を呼んでいるのは、危機の時代に必要な共同体精神の渇望のためではないだろうか。「あなたのもの、私のものという区別はない」という共同体の気持ちで危機の時間を共に乗り切るパートナーとして「カンブ」が切実だ。

しかし現在、大統領選挙局面の中で韓国社会はいつも以上に混乱している。理念と政策方向の健全な葛藤ではなく、反目と分裂の葛藤を増幅している。政治がむしろ社会的信頼を枯渇させている。

社会共同体のための最小限の共通分母を候補が共有しているのか懸念される。新型コロナの災害から社会を立ち直らせ、気候危機に対処して不平等や差別・疎外を解消し、共に幸福と繁栄を享受できるように未来世代のための持続可能な世の中を作るには、理念と政派を離れて同じ共通分母を有していると、極めて常識的な合意でも候補がしなければならないのではないか。

ソン・インハン／延世大学社会福祉学教授・リセットコリア保健福祉分科長


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